イノベーションにおいて日本企業が直面する最大の課題は、ものづくり(技術・商品開発も含めた広い意味)は得意でも、利益や付加価値など経済的価値に結びつけることが不得手なことだ。

 この点が問題にされるようになってから何年も経つが、一向に良い方向に向かう兆しがない。現下の大不況は別にしても、製造企業が創り出す付加価値は、この20年間下がり続ける傾向にある。

 特に緊急の問題は、ものづくりが業績に結びつかないので、ものづくりに「手を抜く」企業が増えてきたことだ。工場の海外移転だけでなく、台湾・中国企業へのものづくりの丸投げが増えている。結果的に、ものづくり能力が落ちてきているので、早く手を打たなくてはいけない。これだけ多くの議論がされているのに、なぜ、日本企業は変わることができないのだろうか。

 責任の一端はわれわれ経営学者にもある。日本企業の問題は戦略の欠如にあると再々発言してきた。例えば、新しいビジネスモデルが打ち出せない、選択と集中が欠如している、などである。しかし、残念ながら、日本企業はこのようなトップ戦略は得意ではなく、結局壁にぶつかっているようだ。

 今回は、日本企業がどうすれば再びものづくりに活路を見出せるのかを、もう一度基本に立ち戻って見ていきたい。

「価値のあるものづくり」とは

 前回、筆者が担当したコラムで、今、日本の製造業に求められているのは、価値の高いものづくり、いわば「価値づくり」であることを述べた。

 元来、ものづくりは価値を創造するためのものだが、その基本がおろそかになっている。ものづくりを否定して戦略に依存するのではなく、今こそ、価値づくりを目指すべきなのである

 それでは、顧客にとっての価値とは何だろうか。日本のものづくりでは、「技術的に機能・性能が優れたもの」を目指してしまう。しかし、機能が高い商品であれば、顧客にとって価値が高いのだろうか。