「大統領選に出馬しようと思っている。その時は君が広報官だから」
ホワイトハウスの新しい広報部長に任命されたホープ・ヒックス氏(28:以下ヒックス)が、ドナルド・トランプ大統領(以下トランプ)にこう告げられたのは2015年1月のことである。
トランプが正式に大統領選に出馬表明する半年前である。ヒックスはその時からトランプの側にいた人物であり、イヴァンカ夫妻を除けば、現政権内の高官としては最も長くトランプに仕えている側近だ。
当時、まだ26歳。若いヒックスがなぜトランプに重用され、広報部長にまで上り詰めたのか。
若くて美しいだけではない魅力
元モデルであり、美麗な容姿がプラスに働いたことは容易に想像できるが、数百人単位の記者たちを相手に、政権内の情報発信の責任を負う芸当が本当にできるのか。
筆者がホープ・ヒックスという名前を最初に耳にしたのは2015年秋のことである。
トランプはすでに、共和党候補の中では支持率でトップに立っていた。だが多くの人は、選挙戦から脱落するのは時間の問題と考えていた。言動が荒く、脆弱に見えたからだ。
それでも勢いのある候補を取材しないわけにはいかない。調べると、ヒックスという若い女性が選挙対策本部の広報担当者であることが分かる。メールアドレスを得て、すぐにメールを送った。
米国人記者だけでなく、世界中の記者たちから毎日数え切れないメールを受信していることは想像できた。だが、トランプ本人に直接、話を聞くことは重要であり、最初の窓口がヒックスだった。
メールのタイトルや文面を変えて何本も送ったが全く返事はなかった。後で分かったことだが、当時、毎日平均250本のメールが内外の記者からヒックスのもとに舞い込んでいた。
ヒックスは、会ったことも聞いたこともない日本人記者に返事を書く余裕はなかった。