(文:西野 智紀)
作者:ヴァル・マクダーミド 翻訳:久保 美代子
出版社:化学同人
発売日:2017-07-24
科学捜査は、多くのミステリードラマや推理小説の題材として扱われてきた。代表的なのは、アメリカ発のテレビドラマ『CSI:科学捜査班』や『BONES─骨は語る─』シリーズだ。日本でも『科捜研の女』が安定した人気を誇っている。推理小説は枚挙に暇がないが、アーサー・コナン・ドイルが1887年に発表した探偵シャーロック・ホームズ初登場作『緋色の研究』で、ホームズが行う綿密な現場検証や、「葉巻の灰による銘柄の同定」「血痕の試験」の話は、現在の科学捜査の原点といっても過言ではない。
このように馴染み深い捜査手法であるが、現実とフィクションが違うのもまた事実である。実際のところ、科学捜査官たちはあの非常線の向こう側で何をしているのか? そんな素朴な興味から、英国を代表する犯罪小説家である一方で、真実への欲求も強い著者は、一流の法科学者たちに話を聞く旅に出た。
浮かび上がってきたのは、身の毛もよだつ凶悪犯罪に対し、正義の鉄槌を振り下ろさんと苦闘する法科学者たちの姿であった。本書『科学捜査ケースファイル 難事件はいかにして解決されたか』はその200年に及ぶ歴史を余すところなくまとめた一冊である。
昆虫も利用される死亡時刻の推定
現在、犯行現場において、科学捜査官が出動するのは、殺人の疑いが濃厚となったときだ。上級捜査官からの呼び出しを受け、現場に到着すると、まず防護具で完全装備する。自分のDNAによる汚染を防ぎつつ、血液や吐瀉物などによるバイオハザードから身を守るためだ。