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私たちが口にしているバナナがなくなってしまうかもしれない?

(文:澤畑 塁)

世界からバナナがなくなるまえに: 食料危機に立ち向かう科学者たち
作者:ロブ・ダン 翻訳:高橋洋
出版社:青土社
発売日:2017-07-25

 バナナがなくなってしまうだって!? 多くの人にとっては寝耳に水であろうが、しかしこの話、けっしてありえないことではないようである。

 現在、人々が口にしているバナナは、その大半が単一の品種、すなわちキャベンディッシュバナナである。そしてそのバナナには、遺伝的な多様性がまったくない。というのも、キャベンディッシュは種子がなく、株分け(新芽を移植すること)をとおして栽培されるからである。それゆえ、「キャベンディッシュバナナはすべて遺伝的に同一であり、スーパーで買うバナナのどれもが、隣に並ぶバナナのクローンなのである」。

 だがよく知られているように、そうした遺伝的多様性の低い生物は、天敵などの影響をもろに受けやすい。実際、かつて人々が口にしていたバナナ(グロスミッチェル種)は、「パナマ病菌」という病原体によって壊滅的な打撃を受けている(その結果として、キャベンディッシュがグロスミッチェルに全面的に置き換わったというわけだ)。

 そしていま、かつてグロスミッチェルを襲ったのと同じ脅威が、キャベンディッシュにも忍び寄りつつある。じつは、病原体の変種がキャベンディッシュをも殺すよう進化し、すでに一部の地域で拡大しているというのである。そういうわけで、一部の科学者たちは「食卓に並んでいるバナナがなくなってしまうかもしれない」と警鐘を鳴らしているのである。