4.今後の世界秩序形成における日本の役割

 以上のように、今後中長期的なトレンドとして、世界秩序形成の枠組みが変化し、従来の米国一極覇権体制から多極化体制へと移行することが予想される。

 そうした変化の中で、これまで日米同盟を基軸として、ほとんどの外交政策において米国に追随してきた日本の外交はこのままでいいのかという問題を考える必要が生じるのは言うまでもない。

 米国の地位低下と言っても、安全保障面では米国が引き続き世界の中で群を抜いた圧倒的な存在である状況が、今後も長期にわたって継続することは疑いの余地はない。

 考慮すべき問題は、経済面、外交面での世界秩序形成メカニズムが、これまでの米国一極体制から、米欧露中印日といった主要国による多極化体制へと移行していく過程において、世界秩序が不安定化するリスクが高まることである。

 そうした局面において、日本はどういう役割を担うべきであろうか。

 日米同盟が日本の外交の基軸であることは今後も変わらない大前提である。

 ただ、世界秩序形成の枠組みが多極化に向かう過程で、米国のリーダーシップが低下すれば、意見集約が難しくなり、結論が出ないまま議論が漂流するリスクが高まる。これは世界秩序の不安定化を意味する。そうした方向に向かう世界情勢の下で日本が担うべき役割を考えてみる。

 日本は防衛力を保持しているが、国際紛争に直接武力介入する軍事力は持たないという特殊な国是を憲法上掲げていることが前提である。この前提自体を見直すべきであるという考え方もあり得るが、筆者はこれを変えるべきではないと考える。

 他国のようにハードパワーで勝負することが難しいからこそ、経済力・文化力に力点を置くソフトパワーを強化しなければならない。その制約が今後、日本の強みとなっていくと考えることができる。

 21世紀入ってのち、世界のグローバル化が進展し、民主主義先進国間では軍事力を行使する機会は大幅に減少しており、軍事力のもつ意味や国際紛争解決における位置づけが徐々に変化してきていると考えられる。

 日本は明治維新以後、東洋の国家でありながら西洋の国々と緊密な関係を構築してきており、西洋東洋の両側から一定の信頼を得ている。

 その日本は伝統精神文化として、古来「和」の理念を尊重してきた。その理念には調和・融和・平和といった概念が内包されており、現在のグローバル社会においても広く受け入れられる理念である。

 これまでの米国一極体制下では、米国が世界の議論のまとめ役としての役割を担ってきた。

 しかし、今後多極化の進展とともに米国のそうした役割が低下していく場合、主要国の考え方の違いがより表面化しやすくなり、国際的協議の結論が出にくくなることが懸念される。

 そうした観点から日本の世界における位置づけを考慮すれば、日本が主要国間の相互理解・相互信頼を醸成する「和」のプラットホームを提供する役割を担い、世界秩序のあり方を巡る合意形成のために積極的に貢献すべきであるというのが筆者の考え方である。

 こうした役割はソフトパワーに依拠することから、政府機関のみならず、民間企業や個人の立場でもこれに協力し、日本の「和」のプラットフォーム形成機能を支えることが可能である。

 日本は安全保障面で武力行使を通じて貢献することが難しいという制約がある中で、世界に対して一定の貢献を果たしていくためには、このような官民の協力に基づくソフトパワーを生かしたやり方が最もふさわしいと考えられる。