2008年11月のことです、新聞各紙に「酸化マグネシウム:便秘薬など副作用15件、うち2人死亡」という衝撃的な見出しが載りました。記事はこう続けています。

 「・・・便秘や胃炎に広く使われている医療用医薬品『酸化マグネシウム』の服用が原因とみられる副作用報告が2005年4月~2008年8月に15件あり、うち2人が死亡していたことが、厚生労働省のまとめで分かった・・・」

 酸化マグネシウムは便通を改善する薬です。日本で使用している人の数は、年間で延べ約4500万人に上ります。死亡事故があったと大々的に報道されれば、処方されている人たちの不安は相当のものでしょう。

 事実、その翌日から私のところも含め、胃腸科を標榜している医療機関は大わらわで「飲んでいるのですけれど大丈夫ですか!?」という問い合わせの対応に追われることになりました。

死亡確率は交通事故の方が1万倍くらい高い

 結論から言うと、一般的には1日量で4グラム程度(330ミリグラム錠剤で1日12錠程度)までであれば、毎日服用していても副作用はほとんど起きません。この薬は1日に1~3グラムの量で処方されている場合が大部分なので、大多数の人(私の推測で99%くらい)は気にする必要なしということです。

 実績がそれを物語っています。この3年4カ月間で、酸化マグネシウムを内服した人は合計で述べ1億5000万人(1年間に延べ4500万人×約3.3年)以上です。この中で、酸化マグネシウムが関連したかもしれないと疑われる死亡例が2名です。つまり、死亡する確率は、0.000001333%になります。交通事故で命を落としてしまう確率の方が、1万倍くらい高いと言えるのです。

 もっと言うならば、2件の死亡例のうち、厚生労働省医薬食品局の『医薬品・医療機器等安全性情報』に症例概要が公表されている1例というのは、臨床経過を見ると、マグネシウムの取り過ぎによる高マグネシウム血症の心停止というよりは、細菌性の敗血症性ショックによる可能性が高いようです。酸化マグネシウムを内服していたので、死亡との因果関係が否定できないということで、副作用情報として報告されたものと思われます。

悪気があったとは思わないけれど

 この記事を書いた記者の方は、「なに!? 年間に延べ4500万人もが使用している薬の副作用で2名が死亡とは大変だ! 早く読者のみんなに伝えねば」という思いで記事を書いたことでしょう。

 そして、この記事の情報元となった厚生労働省側としても、可能性が否定できない死亡症例は副作用情報として周知徹底せねばならないという気持ちで安全性情報を流したのでしょう。

 それでも、その報道の結果として、内服している人たちに与えた恐怖は多大なものでしたし、医療機関は対応に追われることになりました。

 それに、病院やクリニックに問い合わせをしてくれた人たちはまだいいのですが、自己判断で「死亡事故の起こった薬だから」と飲むのを勝手にやめてしまった人たちも大勢いたのは間違いありません。そのため、数カ月経った今現在でも「死亡したと報道があった薬だから」という理由で薬を飲むのをやめてしまい、便秘の症状が悪化してくる方がいらっしゃいます。

 便秘薬としては耐性ができにくいうえに効果もあるため、本当に大勢の人が「便通が出しにくい悩みからすっきり解放された」と非常に評価の高い薬です。だから延べ4500万人もの方が使用しているのです。