ヤンゴン環状線については、全周の信号システムと踏切の改良、およびディーゼルで発電しモーターを回す電気式ディーゼル気動車(DEMU)の導入は日本が円借款を通じて協力する一方、軌道と土木工事はミャンマー側が実施することで合意されている。
だからこそ、ミャンマー側がこうした機械を活用して定期的に計測する習慣を身に付け、「少しゆがみが出てきたから補修時期だ」と、自らメンテナンスするようになることが、菊入さんの願いだ。
さらなる夢もある。
ゆくゆくは、ミャンマー側が施工した環状線の線路の整備具合と、日本が施工したヤンゴン~マンダレー間の幹線鉄道の線路の出来を比べ、ミャンマー国鉄(MR)の施工監理技術の向上につなげてくれれば、と菊入さんは考えている。
改良後は、揺れが小さくなって乗り心地が良くなったり、プラットホームと列車の高さがそろって乗り降りが楽になったりすることが期待されているヤンゴン環状線。だが、最大の変化は、何と言ってもスピードだ。
現在は時速15km程度で1周を3時間かけてゆっくりと走っている列車が、最高で時速60kmまで出るようになり、半分の時間で市内を一回りするようになるのだ。
来たるべきその日に備え、日本人の技術者たちが、毎日のように炎天下にさらされながら、分岐器の状態やレールのゆがみの計測方法をMRの職員たちに指導する。
というのも現在は大きく揺れる程度ですんでいるレールのゆがみやずれが、今後、スピードが上がると、脱線や転覆事故を引き起こす原因になりかねないためだ。線路を定期的に検測し補修する習慣を身に付けてもらう時間は、今をおいてない。
安全啓発キャンペーン
しかし、ヤンゴン環状線の近代化を進める上で、重要かつ喫緊な課題がもう1つある。人々の安全意識の向上だ。
一度でも乗ったことがある人ならよく知っている通り、環状線と人々の暮らしの距離は非常に近い。線路のすぐ脇に家屋やお寺が建っている場所もあれば、前出のダニンゴン駅のようにホームに露店が広がっている駅もある。
言うなれば日本の「駅ナカ」だが、両手に野菜や果物を山のように抱えた買い物客や売り子たちがホームや線路に溢れてごった返している中を列車が発車していく様子は、日本の感覚からするといささかぎょっとする。