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(文:堀内 勉)

 ゲーム理論の専門家で大阪大学准教授の安田洋祐氏がナビゲーターを務めるNHKドキュメンタリーの内容をまとめた本書『欲望の資本主義 ルールが変わる時』は、およそ経済活動に関わる全てのビジネスマンにとってmust readの一冊である。

欲望の資本主義
作者:丸山 俊一
出版社:東洋経済新報社
発売日:2017-03-24

 番組の中では、コロンビア大学教授のジョセフ・スティグリッツ氏、スタンフォード大学教授のアルヴィン・ロス氏、『善と悪の経済学』(東洋経済新報社)の著者でチェコ総合銀行マクロ経済チーフストラテジストのトーマス・セドラチェク氏、ベンチャーキャピタリストでシェルパキャピタル共同創業者のスコット・スタンフォード氏、インドネシアのeコマース最大手「トコペディア」CEOのウィリアム・タヌウィジャヤ氏の5人が安田氏と対談しており、また、エマニュエル・トッド(歴史人口学者)、ルチル・シャルマ(モルガン・スタンレー・インベストメントマネージメント チーフストラテジスト)、ウィリアム・トラヌジャヤ(トコペディアCEO)、原丈人(デフタパートナーズグループ会長)、安永竜夫(三井物産社長)、小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)も登場するが、本書ではその内、スティグリッツ氏、セドラチェク氏、スタンフォード氏の3人のインタビューが掲載されている。

今の方向性はそもそも正しいのか?

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 最後の「あとがきにかえて」は、本番組を企画したNHKエンタープライズのエグゼクティブ・プロデューサーの丸山俊一氏が書いているのだが、本書の内容についてはここから説明するのが分かりやすい。ここで丸山氏が言う本書の問題意識は、「欲望とは何か?」「資本主義とは何か?」「私たちは、いつからこんな世界を生きているのだろうか?」という根源的な疑問である。

 そして、資本主義を動かしている原動力は人間の「欲望」ではないか、ケインズにせよシュンペーターにせよ、経済学の巨人達が取り組んだのは「社会の潜在的な欲望をどう解き明かすか?」にあったのではないか、そして近代的な価値観が揺らぐ今日において、欲望の背後にある人間の様々な思いを再考する経済学があっても良いのではないかというのが、丸山氏の指摘する所である。