(文:コーチ・エィ 番匠武蔵)
元メジャーリーガーで、現北海道日本ハムファイターズの投手コーチ、吉井理人さんの講演を聞きました。
吉井さんには、コーチになったばかりの頃の苦い失敗体験があるそうです。力んで投げる若手投手に「力を抜いてみろよ」と、アドバイスしたところ、その選手は「そうですね」とフォームの改良に取り組みました。しかし徐々に彼本来の投球感覚を見失い、最終的には、元のフォームに戻すことすらできなくなってしまった。そんなお話でした。
吉井さんは、この忘れがたい経験を通して、自分の感覚と選手の感覚は別のものであり、自分の考えを伝えるだけでは、選手の力を十分に引き出せないことを痛感したそうです。
その後、吉井さんは筑波大学大学院で野球のコーチングについて学び、今では選手に「どうしたい?」と尋ねるようにしているそうです。
このエピソードからは、上の立場であっても、指示だけでなく、相手の話を聞くコミュニケーションに価値があることが分かります。こうしたコミュニケーションの重要性は、2009年のニューヨーク上空でも実証されました。
「ハドソン川の奇跡」を支えたコミュニケーション
2009年1月、USエアウェイズの飛行機は、ニューヨークの空港を飛び立ったわずか2分後、両エンジンが停止するトラブルに見舞われました。
危機的状況の中、サレンバーガー機長のとっさの判断で飛行機はハドソン川に緊急着水。死者はひとりも出ませんでした。
これは「ハドソン川の奇跡」として広く知られています。