行動分析学に好子(こうし)と嫌子(けんし)という概念がある。

 好子とは特定の行動を増加させる働きを持つ刺激のことを言い、嫌子とは特定の行動を減少させる働きを持つ刺激のことを言う。

 例えば、部下がオフィスの掃除をしているのを見て褒めたところ、部下が掃除をすることが多くなった、という事例であれば、「掃除をする」という行動に対して、「褒める」ことが好子となって、「掃除をする」という行動を増加させている。

 一方、部下が頻繁に遅刻しているのを見るに見かねて叱ったところ、部下が遅刻をしなくなった、という事例であれば、「遅刻をする」という行動に対して、「叱る」ことが嫌子となって、「遅刻をする」という行動を減少させている。

好子と嫌子を使い分けて人を動かす

 このように人はコミュニケーションの中で好子、嫌子を発現させることで相手の行動に影響を与えている。

 好子の例としては、褒める、肯定する、話を聞く、共感する、うなづく、感謝の言葉を伝える、笑顔になるなどが挙げられる。一方、嫌子の例としては、叱る、怒る、否定する、無視する、無関心、無表情、しかめ面をするなどが挙げられる。

 部下が自らの頭で考え、報告・連絡・相談をきちんと行ったうえで、自発的にアクションを取るようにするためには、そういった行動に対して上司が好子を発現させる必要がある。

 部下が自らの頭で考えて意見を持ってきた時は、しっかりとその意見を聞く姿勢を持ち、仮にその内容はいまいちであったとしても、自らの頭で意見を考えて持ってきたこと自体は褒め、そのうえでその内容の修正すべき点を指摘する。

 上司がこのように好子を発現させながら部下と関わることで、部下の自発的な行動を増加させていくことはできる。

 しかし、せっかく部下が一生懸命考えて持ってきた意見に対して聞く耳を持たなかったり、その内容のダメな点だけを指摘したり、頭ごなしに否定したりして、嫌子を発現させるだけだと、部下の自発的な行動は減っていく。