昨年8月8日の陛下の「お言葉」を受けて、安倍晋三首相の私的諮問機関である「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」(座長・今井敬経団連名誉会長)が論点を整理し、去る1月23日、首相に報告した。これより先の16日には立法府で衆参両院議長を中心に議論を始めた。
有識者会議の報告を受けた首相(自民党総裁)は党内での検討を指示し、民進党も独自に「皇位検討委員会」(委員長・長浜博行副代表)が中間報告をまとめており、国会での議論が本格化するとみられる。
譲位されるにせよ、その他の対処が行われるにしろ、日本における天皇がいかなる存在であるかが、「お言葉」と、それを受けた紙誌などでの議論から広く国民的関心事になったことは、日本を改めて見直す意味で良かったのではないだろうか。
国際社会では、自国さえよければ他国はどうなっても構わないと言わんばかりの保護主義・一国主義の傾向が強くなっている。
長年にわたって培われた国際慣例や条約、その他諸々の平和的な枠組みさえ無視し、軍事力の誇示で我益のみを追求しようとする覇権主義の傾向さえ見え始めている。
こうした中で、日本はいかにあるべきか、真に考えさせられるところである。積極的平和主義を掲げる日本であるが、国内の安定があって初めて可能であり、日本の安定がいかにして担保されてきたかの一端も見えたのではないだろうか。
ちなみに、訪英時のローマ法王は女王陛下を引見(注:引き入れて対面すること)したが、来日では昭和天皇に謁見(注:貴人にお目にかかること)した。
このことは天皇の権威が国際社会で認知されていることを示しており、日本人は誇りに思うと同時に、天皇位を揺るぎないものにしなければならないという思いを募らせる。
国民統合の象徴として
憲法第1条は「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」と述べている。「日本国の象徴」は日本国家の在り方、すなわち立憲君主制が日本の姿・形であるということを内外に示すものである。
日々の行動としては憲法に示された国事行為や公的行事などをされ、その状況は国民に見える形で執り行われるということである。
一方、「日本国民統合の象徴」となると、はてな? となり、なかなか分かりづらい。ただ、国民こそが宝であると思いになるお心、すなわち大御宝と大御心に集約されているのではないだろうか。
そのために、陛下は国民の心の安らぎと幸せが国家の安泰であるというお心で、日夜宮中祭祀に没頭されているということである。
昨年放映された天皇のお言葉は、日常のお勤めの中で体現されておられた陛下の思いと行動の一部を、国民の誰にも分かり易いようにお示しになられたものであった。