世界一の超高齢社会となった21世紀の日本。このままでは医療費で国家予算は破綻に追い込まれる危険性もある。そうした中で、私たちは、健康や医療制度についてどう考えていけばいいのだろうか。

 安倍晋三・福田康夫両内閣で総理特別顧問を務め、政策研究大学院大学教授、日本医療政策機構代表理事などを兼任する医学博士・黒川清先生に、「日本人の健康」というテーマでお話をうかがった。

 第1回は、高齢社会の抱える問題点を浮き彫りにする。日本やいわゆる先進国の医療制度は同じような課題を抱え苦悩している。世界中が高齢化する中で、私たちはどのような生活をすべきなのか。医療政策とは何かについて一緒に考えてみよう。

医療制度(メディカルシステム)ではなく、健康政策(ヘルスケアシステム)

黒川 清(くろかわ・きよし)
東京生まれ。東京大学医学部卒。同大大学院で博士号を取得後、渡米(1969-84年在米)。ペンシルベニア大医学部助手から始まり、カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)教授に。帰国後は、東大医学部教授や東海大医学部学部長、日本学術会議会長などの要職を歴任し、安倍内閣・福田内閣では内閣特別顧問を務めた。現在は、東大名誉教授、政策研究大学院大学教授、日本医療政策機構代表理事などを兼任する。(撮影・前田せいめい)

 日本の医療制度はWHO(世界保健機関)が見ても、国民皆保険制度で医療へのアクセスも自由で、素晴らしい制度だというのが定説だった。

 しかし、本当にそうなのだろうか。

 実は最近、統計的なデータを解析する人が増えてきて、日本の医療制度についても詳しく調べている。そういう専門家は日本人にはあまりいないのだが、彼らによると、日本の制度は素晴らしいと呼べるようなものではなく、むしろ問題の多い制度になってきているという。

 なぜ日本の医療制度がおかしくなってきてしまったのか。その理由は、まず言葉の使い方の問題にあるのではないかと私は考えている。言葉など大した問題ではないと思うかもしれないが、これが結構重要なのだ。

 日本では相変わらず医療制度とか医療政策とか呼ばれているが、実は英語では「メディカルシステム」とは呼ばない。「ヘルスケアシステム」と言う。

 医療とは病気になった人に対して行う治療行為のことを指すわけで、今の時代に国民の健康を守るためにそれが正しい言葉だろうか。

 日本を含め先進国(この意味も徐々に変わりつつあるが、とりあえずこの項では「経済先進国」を意味する「先進国」という言葉を使う)では既に、病気になってからの治療も大切だが、それよりも慢性疾患、特に急速に増えた「生活習慣病」に代表されるように、どうしたら病気にならないか、病気になりにくい体をいかにつくるかという「健康なからだづくり」、つまりヘルスケアが大事になってきている。

 それにもかかわらず、日本ではいまだに「医療制度改革」というように表記してしまう。ここに国民の大きな誤解が生まれる要因があるのだ。