不幸な合併症をなくすべく大腸内視鏡検査の方法は進歩してきた(写真はイメージ)

「これが妻の最期なんだ、みんなしっかり見ろよ!!」

 絶叫する旦那さんを前に、集中治療室で治療に当たっていた私を含めた医師たちは、ただただ立ち尽くすだけでした。

 20年前のことです。これまで何の症状もなく普通に暮らしていた主婦の方が、50歳の節目だからと大腸内視鏡検診を受けました。ところが、大腸内視鏡検査に伴う穿孔(腸管に穴があくこと)が原因で、2カ月近くの懸命の治療のかいもなく亡くなられてしまったのです。

 大腸内視鏡検査は、大腸がんを早期発見してポリープの段階で切除することができるので、大腸がん予防に有用とされています。しかし大腸の腸管の壁は薄いため、20年前は、そしてつい最近までも、内視鏡挿入に伴う腸管穿孔がしばしば起こっていました。

 十二指腸潰瘍の穿孔とは異なり、大腸穿孔の場合、糞便により細菌性腹膜炎から敗血症ショックなどをひきおこし、死亡率は2010年代においても20%程度と予後不良です。

穿孔事故が起きない「無送気軸保持短縮法」

 なぜ、大腸内視鏡検査に伴って腸管を破る穿孔の合併症が起きてしまうのでしょうか? それは、大腸内視鏡の挿入法に起因していました。

 多くの医療機関が行っている一般的な大腸内視鏡の挿入法は「ループ挿入法」です。これは、腹膜に固定されていない(おなかの中でぶらぶらしている)S状結腸部分を押し込んで進める挿入法です(下の図)。

ループ挿入法のイメージ図(出所:「よくわかる大腸肛門科」サイト)

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