ニューヨーク生まれニューヨーク育ちのドナルド・トランプ候補が、ニューヨークが政治基盤のヒラリー・クリントン候補を破った今回の大統領選挙。しかし、ニューヨーク州での結果は59.0%対36.5%、クリントン候補の圧勝だった。
投票後、ニューヨーク市内では、反トランプデモが続き、ヘイトクライムが急増している。11月20日、アンドルー・クオモ・ニューヨーク州知事は、警察にヘイトクライム対策班を創設することを発表、さらに「移民を国外退去させるというのなら、(移民である)私から始めろと言おう」とも語ったという。
世界の経済の中心ニューヨークには、様々な文化が混在、出身地も多様な、多くの民族が暮らす。桁外れの金持ちセレブもホームレスも日常的に目にし、格差や差別もあらわな、価値観も多種多様なメトロポリスである。
そんな24時間眠らぬ街には、「アメリカン・ドリーム」実現を胸に、国内外至る所から多くの人がやって来る。
『ディアボロス/悪魔の扉』(1997)の主人公ケヴィンもフロリダの田舎町から愛妻メアリー・アンとともにやって来た若手弁護士。法廷での無敗記録を誇り、ミルトンがトップを務める大手法律事務所にヘッドハンティングされたのだ。
ドナルド・トランプも来るはずだったが・・・
早速、絶対的不利と思われていた案件で勝訴。さらに、妻子殺害容疑のマンハッタンの不動産王アレックスを弁護することになる。
出世の大チャンスだが、動機は十分、切り札と考えた証人も怪しく、勝訴という弁護士の使命・欲望と人間としての良心との相克に揺れる。その一方で、快活だったメアリー・アンが精神を病み、自身とミルトンの、そして悪魔との関係を知るに至り・・・。
法の名のもと、悪魔の仕業とも言える勝利で、汚いカネも平気で受け取る法曹の矛盾に満ちた世界を描く本作は、「悪魔の弁護人」を原題とする道徳劇、宗教劇であり、ケヴィン役のキアヌ・リーヴス、ミルトン役のアル・パチーノ、メアリー・アン役のシャーリーズ・セロンの熱演光る異色ホラー劇である。
ケヴィンは、アッパー・イーストサイド、カーネギーヒル、5番街の高級コンドミニアムに住まいを提供される。最上階にはミルトンが住んでいる。
そんなセントラルパークを一望できるコンドミニアムの一室で行われたパーティには、法律事務所に「関係」する有力者たちが集い、上院議員の姿もある。「ドナルド・トランプも来るはずだったのに、急な仕事が入ったらしい」との声も聞こえてくる。
不動産王アレックスが暮らす部屋は、おびただしい数のゴールド、大理石、鏡、絵画などで彩られ、その「金ぴか」ぶりが目をひく。ブルーレイディスクのテイラー・ハックフォード監督のコメンタリーは、それはトランプ・タワー最上階、トランプ次期大統領個人の部屋で、丸1日借りて撮ったものだ、と語る。
トランプ・タワーは、高級コンドミニアムや歴史ある大邸宅がたち並ぶニューヨークの富の象徴である5番街の、1.5キロほど高級ブティックが続く42nd streetから 59th streetの北端近く、ティファニー本店隣に建つ。
とはいえ、1961年製作の『ティファニーで朝食を』の冒頭、早朝、タクシーで乗りつけたオードリー・ヘプバーンが、「ティファニーで朝食を」とる名シーンをみても、1983年竣工のそのビルを見ることはできないが・・・。
一方、同じマンハッタン、セントラルパーク西南端、コロンバスサークルあたりにあるトランプ・インターナショナル・ホテル・アンド・タワーは、「米国で最も高価、平均価格560万ドルの最高級マンション「ザ・タワー」」として、ベン・スティラー主演のシニカルなコメディ『ペントハウス』(2011)に登場する。
映画は、ベンジャミン・フランクリンの肖像、巨大な100ドル札がその底に描かれる豪華なタワーマンションの屋上プールで泳ぐペントハウスの住人アーサー・ショウを映し出し始まる。
ショウはウォール街の大物で、同じニューヨーク、クイーンズ、アストリア地区出身の管理マネージャー、ジョシュとは、オンライン・チェスをする仲。しかし、ショウのセレブ生活とは対照的に、今もアストリアで暮らすジョシュは、早朝から「ザ・タワー」の住人が「気持ちよく過ごせるよう」あくせく働く。
そのショウが、複数の証券詐欺で起訴された。
「ザ・タワー」理事でもあるショウには、従業員の年金運用が託されており、無に帰しそうだ。在宅拘禁を条件に、ショウは保釈金1000万ドルで釈放されるが、一方で、引退を決め、全財産をショウに託したばかりのドアマンが絶望のあまり自殺未遂。
ジョシュはショウに抗議するが、悪びれる様子もないのを見てキレ、ゴルフクラブを振り回しリビングに飾ってあるフェラーリをめった打ちにする。
同行した「ザ・タワー」スタッフともどもクビになったジョシュは、「搾取された農民が蜂起して、悪徳領主から取り返すのだ」と、ペントハウスにあるとふんだ隠し金2000万ドルを奪おうと・・・。
このショウなる人物は、巨額詐欺事件を起こしたバーナード・マドフを連想させる想像上の人物だが、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)のマネーとドラッグとセックスにおぼれた下品極まる主人公ジョーダン・ベルフォートは、実在の株式ブローカー。自身の回顧録の映画化である。
そのベルフォートが初めてウォール街に降り立った後、映し出されるニューヨーク証券取引所の映像は、近くの交差点、フェデラル・ホール前に建つ銅像の後方から撮られている。