(文:内藤 順)
作者:佐々木俊尚
出版社:アノニマ・スタジオ
発売日:2016-11-30
佐々木俊尚さんといえば、これまでの著書において新しい潮流を描き出すとともに、旧態依然としたものを片っ端から斬ってきた遍歴を持つ。ターゲットは時に新聞・テレビであったり、日本のリベラルであったり、民主主義だったりと様々であった。そして本作ではその対象が「ジャーナリスト像」のようなものへ向かったのではないかと感じる。
とは言っても、本書は別にジャーナリズムについて書かれた本ではない。描き出す対象ではなく、手法の部分に新しさがあるのだ。ふと日常で疑問に感じたことの延長線上に問いかけがあり、わざわざ取材しにいったという感じがまるでない。硬派な筆致でもないし、社会の闇を暴き出しているわけでもない。全編が「ゆるゆる」というキーワードで貫かれており、生活者として、ジャーナリストとして、2つの側面の境界線が溶けていくような印象だ。
イデオロギーに縛られない新しい生活のあり方
そんな本書のテーマは「暮らし」について。中でも多くの人にとって、「食」の分野は興味を引かれるところであるだろう。だが特に「食の安全」をめぐっては、誰もが気になる話でありながら、声高に「食の安全」を叫ぶ人たちの存在も手伝って、複雑な様相を呈している。
実は、このような過剰な原理主義が台頭してきた背景には、現代の大衆消費社会へのアンチテーゼがあったのだという。その源流を著者は「カウンターカルチャー」の変遷の中に見出し、メンタリティを解き明かしていく。