2010年2月5日、ドミトリー・メドベージェフ大統領が、新しい「ロシア連邦軍事ドクトリン」を承認した。

 「軍事ドクトリン」とは、「ロシア連邦憲法」及び「国防に関する連邦法」に基づき、ロシアの軍事安全保障分野における中長期的な軍事戦略をとりまとめた国家文書である。今回10年ぶりに改定されたロシアの新しい軍事戦略の特徴は、以下の3点に集約される。

伝統的な脅威の重視-勢力圏的発想が強まる

ロシア、グルジアから独立宣言したアブハジアに対空ミサイル配備

ロシア・ベラルーシ合同軍事演習「West-2009」で配備された地対空ミサイル「S-300」〔AFPBB News

 新「軍事ドクトリン」の大きな特徴として、イスラム過激勢力によるテロリズムという新しいタイプの「非伝統的な脅威」より、グルジア紛争のような国家間紛争という「伝統的な脅威」への対処をより重視している点が指摘される。

 2005年にウラジーミル・プーチン大統領(当時)が「軍事ドクトリン」の改定を指示した際に、当時、安全保障上、最も重視されたイスラム過激勢力によるテロリズムへの対処を新文書にどのように反映させるかが課題とされた。

 しかしながら、2008年8月に隣国グルジアと軍事衝突が発生したこと、2009年4月に約10年に及んだ第2次チェチェン紛争の終結が宣言されたことなどから、旧文書と同様に新「軍事ドクトリン」においても、引き続き「伝統的な脅威」を重視する姿勢が維持された。

 そして、ロシアが「伝統的な脅威」を重視するようになった結果、旧ソ連圏をロシアの「伝統的な勢力圏」と見なす発想が濃厚となった。

 カラー革命や北大西洋条約機構(NATO)の拡大への反発など、欧米諸国の影響力が旧ソ連圏に及ぶことにロシアは抵抗し、その帰結としてグルジア紛争が発生した。

 ロシアの勢力圏的発想は、これまでは米国のユニラテラリズムに反発するロシアの対外行動として、現象面からのみ説明されてきた。

 しかし、その行動規範が新「軍事ドクトリン」に明記されたことにより、勢力圏的発想に基づく対外行動がロシアの軍事戦略文書において公式化されたのだ。

 新文書において勢力圏的発想を如実に示す主要な規定は、以下の2つである。