大統領選の勝利宣言の翌日(11月10日)、ドナルド・トランプ氏はホワイトハウスにオバマ大統領を訪ね、1時間半にわたる会談を行った。なごやかなムードの会談でトランプ氏は、米国が直面する問題について「オバマ政権のチームと協力していく意欲を示した」と報じられた。
新旧の権力者が堂々と並び立ち、権力を手渡しするかのようなイメージだが、実情はそうでもなかったようだ。「ウォール・ストリート・ジャーナル」によればトランプ氏は、一国を統治する大統領の職務範囲についてオバマ氏から説明を受けると、「そんなに範囲が広いのか」と驚いていたという。こうしたトランプ氏の政治への無知は、政権移行の現場に大きな影を落としている。
ある国防総省の職員によれば、選挙が終わってから10日が経っても、国防総省のあるオフィスには政権移行チームが1人も姿を現していなかったという。これはきわめて異例の事態だ。
いま首都ワシントンでは、果たしてトランプ政権は来年1月20日の就任式までに、一国の政治を切り回す準備を整えられるのかという懸念がささやかれている。
4000人がごっそり入れ替わる政権交代
アメリカ政府は、大統領が交代するたびにダイナミックな変化を遂げる。日本では政権交代で顔ぶれが変わるのは国会議員である大臣・副大臣・政務官ぐらいで、その下の膨大な実務は終身雇用の公務員が担っている。だがアメリカでは閣僚クラスはもちろん、それを支える大勢のスタッフが政権交代とともにごっそり入れ替わり、その総計は4000人を超える。
4000人の多くは、シンクタンクや大学などの研究者、コンサルタント企業・軍需産業・金融業界などのエリートたちで、数年ごとに政府の仕事に就いてはまた民間へ戻っていく「回転ドア人種」だ。彼らはおおまかに言って民主党系と共和党系に分かれており、支持政党が政権をとっている間に政府で働くことが多い。