2010年9月7日、ウクライナ議会は、与党議員立案による新「言語法」案を登録し、審議を開始した。今日、ウクライナではウクライナ語とロシア語が広く使われているが、国家語という法的地位の前者に対し、後者は明確な法的地位がない。
確かにウクライナは加盟国内の少数・地方言語の保護・発展のための「地方または少数言語のためのヨーロッパ憲章」を批准しており、ロシア語は少数言語に認定されている。
が、その保護・発展のための具体的な法制度は整備されてこなかった。
「言語法」案は、上記ヨーロッパ憲章を根拠として「ロシア語の力強い発展を保障するため」、ウクライナ国内に少数言語、地方言語という法的地位を設け、国家語に迫る権利付与を画策しているものだ。
この動きに対し、早くも「ウクライナ民族主義勢力」(本稿ではウクライナ西部の民族主義観に基づく勢力を指す)からの抗議行動が湧き上がっている。
ロシア語は少数言語か?
現在の国家は、多くの言語を抱え込んでいる。近代国家が成立する以前から、多様な言語の話者たちが暮らしているわけだから、「1言語1国家」がなかなか実現しないのは当然だろう。
ウクライナもまた、ウクライナ語、ロシア語、ポーランド語、イディッシュ語、クリミア・タタール語などの話者が住む空間に、ソ連が領域を設定してつくり上げた国家であり、独立時から今日に至るまで多様な言語話者が存在してきた。
とはいえ、おおよそウクライナ語とロシア語がウクライナにおける2大言語であり続けた。すなわちウクライナ語は名称民族の言語として、そしてロシア語はソ連時代の公用語と古くから(ウクライナ国家成立以前から)居住するロシア語話者とその子孫の言語として、広く用いられてきたのである。
それでは今日、ウクライナのロシア語話者はどのような状態にあるのだろうか。現行の法制度から見る限り、ロシア語話者には逆風が吹いている。