我が国の安全保障の当面の緊急課題が、北朝鮮の核ミサイルの脅威に対する対応措置をいかに構築するかと、中国が日に日に圧力を加えている南西諸島(とりわけ尖閣)への武力行使に対し、これを抑止し侵害されれば速やかに奪還できる有効な防衛態勢をいかに整備することにあることは言うまでもない。
北朝鮮の核ミサイルの脅威に対してはイージス艦への早期の「SM-3ブロックⅡA」や「THAAD」、高性能改良「PAC-3」の導入が必要だが防衛的な拒否的抑止だけでは不十分である。
やむを得ない事態には発射基地を叩く手段(例えば長距離の弾道・巡航ミサイルや有人無人爆撃機など)を保有し懲罰的抑止力能力を整備する*1ことが欠かせない。また特殊部隊その他による日本海沿岸に多数存在する原発基地の防護や化学兵器テロ対策も疎かにできない。
南西諸島防衛のためには米軍のように水陸両用作戦を専門とする海兵隊1~2個師団を持ち大規模な海上・航空機動を可能とする艦艇や航空機、敵前上陸のための舟艇・水陸両用車、これを火力支援する艦隊、専門航空団、さらに固有の兵站部隊を整備することが望ましい。
また沖縄に配備されている貧弱な名前だけの陸自の第15旅団の防御力を格段に強化するため勢力の拡大・高性能対空ミサイル、さらに長射程の対艦ミサイルの早期展開が必要であり、また本州などからの緊急増援部隊のみならず弾薬燃料などの兵站物資輸送手段として固有の海上経空輸送手段を保有することが欠かせない。
加えて陸海空自衛隊はその能力向上のため、2次的隊務は極力割愛しそのために専念すべきだろう。
この観点からある防衛大臣がかつて「海洋国家で海兵隊を持っていないのは日本だけだ、周辺諸国を見よ」とその必要性に言及した。確かに中国・韓国をはじめ台湾はもちろん、タイやインドネシア、フィリピン、ベトナムに至るまで海兵隊や海軍歩兵(陸戦隊)を保有している(表1参照)。
また某幕僚長は、南西方面島嶼防衛のためには陸自の定員2万5000を海自に移し海兵部隊を整備することが欠かせないと主張した。
以上は防衛当局も十分に認識している。しかしながらこれが容易にできない事情が存在し、関係者はこれをいかにして達成するかに心を砕いているのである。
以下、南西防衛に関しその実態を顧みてみよう。
南西方面防衛施策のジレンマ
我が国においては自衛隊や内局を含む防衛当局が、防衛所の緊急所要をいかに要求しても政治・社会はこれを容易には許容しないのである。
「戦争は他の手段を以ってする政治の延長」(クラウゼヴィッツ)であるし、民主主義国家においてはシビル・コントロール(Civil Control)の原則上、軍事は政治に従わなくてはならないが、その政治は国民の大方の意志に支配される。
その我が国民はなおも米国の占領政策によって度を越した反戦平和意識が牢固として刷り込まれたままで、また与えられた憲法が戦力保持を禁じ・武力行使を封止し・交戦権を否認したため、国民の安全保障意識は今なお現実無視の幻想の世界にある。
このため、専守防衛、廃止されたが基盤的衛力構想、防衛費1%枠、周辺諸国に脅威を与えない防衛力などの軍事的合理性に悖る防衛政策を強いられてきた。
*1=政府はかねて「座して自滅を待つことが憲法の趣旨とするところではなく、やむを得ない際にはそのミサイル等の基地を攻撃することも自衛の範囲である」とたびたび国会で明らかにしている(衆・内閣委S351.2.29および34.3.19)。