「ミツバチ問題」は農薬規制だけでは解決しない

養蜂とはちみつの過去・現在・未来(後篇)

2016.09.23(Fri)漆原 次郎

 一方、ミツバチのこれら生産活動を人間が効率的に利用し、はちみつや交配用ミツバチを得るのが「養蜂」だ。養蜂家は、アカシア、レンゲ、ミカンなどの蜜源植物が生息する場所にミツバチを運んで、花の蜜を集めてはちみつを作ってもらう。南北に長い日本列島で、目的の蜜源となる草木を追いかける転飼養蜂と、次々と花が咲くような生物多様性の高い土地で多様なはちみつを生産する定飼養蜂があり、養蜂業者はこれらの方法でさまざまなはちみつを生産してきた。

 ところが、養蜂を続けられるのかと心配になるような出来事が報じられた。「ミツバチ大量消滅」だ。欧米では2000年代から、働きバチが大量失踪し、群れを維持できなくなる「蜂群崩壊症候群」が問題化。日本国内では、蜂群崩壊症候群とは認められないものの、2008年から2009年にかけてミツバチの群数が減少し、花粉交配用ミツバチが不足するなどした。

 今回のミツバチの大量消滅と同時期に使用が増えた農薬が、ネオニコチノイド系だった。因果関係が疑われ、2012年3月には、科学誌『サイエンス』オンライン版に、ネオニコチノイド系殺虫剤への暴露がミツバチの高い致死率を引き起こすとする研究結果などが報じられた(Science 2012; 336(6079): 348-50.)。

 2013年12月、欧州連合は「予防原則」の観点から、ミツバチが好んで訪れる作物へのネオニコチノイド系農薬3種を使用禁止とした。日本では現在のところ、カメムシなどの害虫に対する防除効果があることを理由に、農林水産省はネオニコチノイド系農薬の使用規制をしていない。

農薬だけ悪者扱いは「全体を見たつもりになっている」に過ぎない

中村純(なかむら・じゅん)氏。玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター教授。玉川大学大学院農学研究科修士課程修了。日本配合飼料でミツバチの試料開発などをした後、青年海外協力隊としてネパールへ行き、養蜂を通じての村落開発普及に携わる。タイのチュラロンコーン大学研究生を経て、1993年、再び玉川大学へ。博士論文「資源環境悪化に対するミツバチ群の調節機構」で農学博士号取得。助手、講師、助教授を経て、2004年より現職。

 玉川大学教授の中村純氏は、「ネオニコチノイド系農薬の使用規制でミツバチを救えるか」という解説記事を2015年『日本農薬学会誌』に寄稿した。

 この疑問文のタイトルに対する中村氏自身の答えは懐疑的なものだ。農薬だけが悪者にされている状況を、「関係者が切り分けたパイの中身だけで全体を見たつもりになっている」とたとえる。

 農薬のミツバチへの影響を否定してはいない。農水省が2016年7月「カメムシ防除に使用された殺虫剤に、蜜蜂が直接暴露したことが原因である可能性が高い」などとする「蜜蜂被害事例調査」の結果を公表したが、中村氏は「『可能性が高い』ではなく、原因であることは分かっていること」と話す。「農薬には水和剤と粉剤があるが、ラジコンヘリで散布するのに軽くて適した粉剤のほうの影響が、特に出やすいことも分かっています。水田の畦に生えているクローバーはミツバチの好物ですが、それが高濃度で農薬に汚染されているために影響が出ていると見ています」。

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