People look at a man as he jumps from the 22 meters high bridge Ura during the High Diving competition near the town of Gjakova on July 31, 2016. (c)AFP/ARMEND NIMANI

 「今度、課長に昇進させていただくことになりまして」。そう言って新しい名刺を渡された。誰もが知っているような大手企業の営業の方である。

 「おめでとうございます。ついに課長ですか。すごいですね!」。そうお伝えすると、「ええ、まあ」と、素直に昇進を喜べないような苦笑いの表情をされた。

 それから話をする中で今回の昇進についての本音を聞くと、何とも切ない答えが返ってきた。

 「正直、うちの会社、業界の変化についていけてないので3年後にはどうなってるか分からないです。なので、昇進しても明るい未来が待っているわけでもなく、むしろ責任が重くなった分、いざという時に辞めにくくなったというか。そう考えると複雑な心境で」

ジリ貧状態でもリスクを忌避

 この会社は数十年の歴史のある会社で、日本全国に相当な数の支店を持ち、信頼やブランドは一流といっても過言ではないが、その実態は旧態依然とした組織で、変化を嫌い、過去の栄光から脱却できず、業績は年々下降の一途を辿り、ジリ貧状態にあるという。

 業界の変化に敏感な社員が危機意識を感じ、新たなアクションを提案するも、上司からはリスクばかりを列挙された挙句、却下される。この営業の方もそういった経験は多々あるとのことだった。

 「新たなアクションを起こすには当然リスクはあるので、そこは指摘してほしいですし、根本的にダメなアイデアなら却下されても仕方ない」

 「ただ、代替案も出さず、建設的な意見も言わず、新たなアクションを起こすこと自体に否定的な態度なのが我慢できないです。『だったらあんたら指くわえてこのまま会社が潰れるのを待ってるのか』って言いたくなりますよ」

 近い将来、会社自体がなくなるかもしれないという危機的状況にあるのに、社内の会議では現場の細かな問題に終始するのみ。ああでもないこうでもないと言った挙句、結局、これといった結論も出ないまま会議は終わる。

 新聞やネットを見てうちの業界がどういった状況にあるかは分かっているのに、見て見ぬふりをして、これまでのやり方を変えようとしない。

 このような会社の状況を見て、「この会社に未来はない」と転職していく人も出始めている。そんな状況にあるため、素直に昇進を喜べないとのことだった。