元自衛官として、争いごとを誰よりも嫌う。現役の自衛官も家族ともども同様だと思う。
しかし、先の参院選に次いで東京都知事選で日本国民の関心が内政に集中し、続いて平和の祭典と言われるリオ・オリンピックを堪能している間に、中国は一方的に東シナ海の日中中間線や尖閣諸島周辺で日本を翻弄している。
尖閣諸島周辺では領海侵犯を繰り返し、東シナ海上空では攻撃動作を仕かける中国の大胆不敵な行動に対し、日本は十分な対処ができていない。先の安保法制はこうした事態に対処する最小限の法制でしかなかったが、野党などは今でも廃案を目指している。
「廃案」という的外れの行動は、先の法案審議が違憲論争に終始し、現実に起きている国際情勢をはじめ、尖閣諸島周辺の状況などにほとんど質疑が及ばなかったからである。
その後の状況は安保法制の有用性に加え、自衛隊の行動を律している自衛隊法にも大きな欠陥があることが判明してきた。
尖閣諸島周辺の状況は緊迫しており、海上保安庁や自衛隊が対処している実相を検証し、また厳しい現実を国民に知らせ、法改正につなげる必要があるのではないだろうか。
政府に有難迷惑の論文
6月28日のJBpressに織田邦男元空将が投稿した「東シナ海で一触即発の危機、ついに中国が軍事行動 中国機のミサイル攻撃を避けようと、自衛隊機が自己防御装置作動」が波紋を広げた。
この論文を巡って、日本政府(内閣官房及び防衛省)は翌29日、スクランブル発進したことは認めたが、「攻撃動作やミサイル攻撃を受けたというような事実はない」と否定した。
そのうえで、記事が「国際社会に与える影響も大きい。内容については個人的(注:萩生田光一官房副長官)には遺憾だ」(「産経新聞」平成28.6.30)と述べ、投稿者を批判した。
ところが、その5日後の7月4日、中国国防省が「東シナ海を巡行する中国軍のSU-30戦闘機2機に対し、空自F-15戦闘機2機が高速で近づき、レーダーを照射。中国軍機が対応したところ空自機はミサイルなどを撹乱する『フレア』を噴射して逃げた」(『正論』2016年9月)と、発表したのである。