「名人に定跡なし」というのは将棋の世界の格言があります。名人と呼ばれる人は時々、周囲が「あれっ?」と思うようなセオリーに反した手を指すことがあります。名人にはセオリーは関係ないということは、セオリーにとらわれている限りは名人になれないのでしょうか。

 このことについて考えることは、ビジネスでも有益でしょう。

定跡とはセオリーのこと

 まず定跡(じょうせき)とは何かということですが、これは「過去から研究が積み重ねられてきた、実績のある指し方」と定義して良いでしょう。詳しくはありませんが、囲碁だと「定石」というようですね。将棋の場合、どんな戦法であっても、序盤から中盤にはほぼ完全に定跡があります。

 定跡は先人の経験からできていますから、それに従って指している限りは失敗がないわけです。逆に言うと、そこから外れると何らか自分が不利になる可能性があるということです。初心者の頃は「定跡なんて堅苦しい。もっと自由に指したい」などと思うものですが、定跡を知らない人は、知っている人に勝つことはできません。

将棋の名人とはどんな人か

 将棋のプロの世界は、厳しい世界です。奨励会という養成機関を勝ち上がって、四段になったらプロ棋士として認められます。プロ棋士になるには年齢制限があり、標準的には小学生から、遅くとも中学生から奨励会に入って血みどろのバトルロイヤルを繰り広げ、勝ち残った人だけがプロになれるというシステムです。