(文:峰尾 健一)
作者:諏訪 正樹
出版社:講談社
発売日:2016-06-11
何やらそそられるタイトルだ。とらえどころのない「こつ」と「スランプ」の正体に、いかにして迫っていくのか。そもそも、それらは研究できるものなのか。期待と不安が入り混じるまま読み進めた先に待っていたのは、思わぬアプローチと意外な着地点だった。
実は、「こつ」や「スランプ」についての話は本書『「こつ」と「スランプ」の研究 身体知の認知科学』の一面に過ぎない。研究対象とされているのはより広い領域、「身体知」である。
身体知とは、シンプルにいえば「からだに根ざした知」だと著者は言う。自転車の漕ぎ方やゴルフのドライバーなどが分かりやすい例だ。いわゆる「暗黙知」との違いは明確に書かれていないが、読んだ限りでは、「からだで理解する」というニュアンスをより強調した言い方が「身体知」だと思われる。
「からだに憶え込ませる」という言い回しがあるように、身体知は反復練習の中で徐々に感覚を掴むことで身につくもので、一見「ことば」は邪魔なように思える。自分の経験に照らし合わせてみても、うまくいかない時ほど脳内にことばが氾濫し、ああだこうだと考えていた気がするのだ。
しかし本書で一貫して繰り出されるのは、「身体知を学ぶためにはことばが重要な役割を果たす」という主張である。