このところパリの道が賑やかである。というのも、9月から毎週のように、横断幕やプラカードを掲げ、拡声器の音頭にのってシュプレヒコールを繰り返すデモ行進が街のどこかで繰り広げられているからだ。
パリ中が定年延長に反対のデモ行進で埋め尽くされた
これは、定年が60歳から62歳に引き上げられることに反対するもの。フランスのデモ行進はお馴染みだけれども、今回は特に重要案件に関わることだから、その規模も大きい。
しかし、今回取り上げるのはそちらの賑やかさではなく、むしろアーティスティックな話題。道を舞台にしたアートが元気なのである。
まず、路上が舞台という展覧会が増えた。その先駆的存在なのが、リュクサンブール公園の周囲にめぐらされた柵を使った写真展。
ヤン=アルチュス・ベルトランの名を国際的に有名にした「空から見た地球」のシリーズは、2000年のここでの発表が最初。
往来を行く人々が無料で鑑賞できるという、いわば野ざらしの、しかしかなり周到に準備されたこの手の写真展の仕かけそのものも、わたしが知る限り初めてのことだった。以来、この場所は、パリでも指折りの写真展会場であり続けている。
また近頃では、建築工事中の建物の覆いを壁に見立てたエキスポというのも行われるようになってきた。
本来こういったスペースは広告にもってこいのはず。ところが、閉店して久しいポンヌフのたもとのデパート「サマリテーヌ」の壁は、しばらくの間パリを舞台にしたデッサンで彩られ、ごく最近では、アフリカ人写真家による大画面作品の発表の場として使われている。
この建物の持ち主は、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトングループのはず。そうなると、自社製品の広告を出してもよさそうなものだが、あえてこのように、アートの場として扱っている。
このような公道を大がかりに利用したアートばかりではなく、パリには道そのものをキャンバスに見立てた大小のアートが、実はたくさんある。