船旅の最中だった。甲板に出ている売店を切り盛りしているのは若いお母さんで、小さな女の子が隣にいた。スイカを分けてくれたので、ありがとうと言うと、お母さんは笑って答える。
「いつも何かしらあるから、特にありがたくないわよ」
「そうなの」
「そうよ。マナウスからタバチンガまで、1週間の船。いろんな人がひっきりなしに何か持ってくるのよ」
「いいじゃない」
「ここで暮らしているからね。住所代わりの、アマゾン船」
「タバチンガまで着いたらどうするの?」
「タバチンガからマナウスまで、同じ船で今度は1週間下るのよ」
「それから?」
「それからもっと下って河口の町ベレンまで行くか、マナウスで下りてまたタバチンガまで戻るか」
「ずっと船の上?」
「だってここが生活だもの」
「生活」
「そう。停泊した町で船を下りてちょっと外を楽しんで、そしてまた船に戻るのよ。ただいまーって」
しゃべり続ける私とお母さんを横目に、女の子はスイカの種をアマゾンの川面に吐き出している。軒先に座って庭に種を吐き出すのと、同じように。ひとしきり種を吐き出してスイカに飽きた女の子は、アンナクララと名乗って私を船員室に引っ張っていった。