本当に読むに値する「おすすめ本」を紹介する書評サイト「HONZ」から選りすぐりの記事をお届けします。
イスラム教徒の巡礼地メッカ。預言者ムハンマドはどんな一生を送ったのか?

(文:仲野 徹)

ムハンマド──世界を変えた預言者の生涯
作者:カレン・アームストロング 翻訳:徳永里砂
出版社:国書刊行会
発売日:2016-01-27

 ムハンマド、あまりに人間らしさにあふれているではないか。といえば、不謹慎になるのだろうか。『ムハンマド──世界を変えた預言者の生涯』(国書刊行会)は抜群に面白い伝記であった。

 イスラームの開祖、より正しくは、アラブにおける唯一神アッラーの言葉をつたえた預言者ムハンマドの伝記である。

 その啓示は、クルアーン(コーラン)としてムハンマドの死後20年たって公式に編纂され、聖典となった。いかにたくさんの人が、クルアーンの朗読に圧倒されてイスラームに改宗していったかに驚かされる。

 クルアーンの内容の一部が紹介されているが、どこがそんなにすばらしいのかがわからない。当時のアラビア半島における社会状況もあるのだろうが、どうやら、それ以上にクルアーンの美しい響きが重要らしい。だから、クルアーンはアラビア語でないとダメなのだ。YouTubeで聞いてみると、意味がわからなくとも心地よい。砂漠のような環境で、美しい調べにのって語られる、住みよい社会を目指す教えというのは、当時のアラブの人たちにとって、よほど心にしみいるものだったのだろう。