南シナ海における中国の傍若無人の行動を見るにつけ、アジア重視にピボットしてリバランスしたはずの米国に疑問が湧いてくる。
カリブ海と南シナ海では米国にとっての意味が異なることは分かる。しかし、ソ連がキューバにミサイルを持ち込んだ時の対応に比して、中国の南シナ海における行動に対しては余りにも対応が鈍い。
軍首脳たちは対応が遅れれば遅れるほど、大きな犠牲が伴うことを進言しているようであるが、2回ほど「航行の自由」作戦を行っただけでる。「世界の警察官ではない」と宣言した大統領には別の思惑があるのかもしれない。そうした米国の対応を見越して、中国は急ピッチで南シナ海の軍事拠点化を進めている。
内向きのバラク・オバマ政権で、果たして日本の安全は保障されるのか。日本はどういう立ち位置で行動すればいいか、今一度真剣な考察が必要であろう。
台湾の政権交代を追い風に
台湾では先の総統選挙で親日的な蔡英文氏が大差で勝利し、5月に8年ぶりの政権交代が行われる。同時に行われた立法院選挙でも民進党が過半数を超す議席を確保し、与党による安定した議会運営が期待される。台湾の現状維持は日本のシーレーン維持のためにも不可欠である。
しかし、中国が主張するように南シナ海が中国領となり、内海化して対空ミサイルや戦闘機・戦闘爆撃機を配備し、さらに防空識別圏を設定すると、海上自衛隊や米第7艦隊は通りにくくなる。それはとりもなおさず台湾の孤立化であり、その先にあるのは台湾の香港化であろう。
その結果、台湾海峡とバシー海峡の自由航行が阻害されることになれば、南シナ海を通る日本のシーレーンは遮断され、ASEAN(東南アジア諸国連合)との通商は大きな打撃を受けることになる。
もちろん、中東からの原油輸送も南シナ海の航行ができなくなれば迂回が必要で、長大な航路となり、経済的損失は計り知れない。また、台湾を拠点に東シナ海における中国の活動は一段と加速され、尖閣諸島が大きな影響を受けることは必定である。
このように考えると、日本と価値観を同じくする台湾が健在することは、何よりも日本の安全保障にとって不可欠の要件である。
いまは台湾が頑張ってくれているから海峡通過が可能であるが、中国の影響下に入ったならば、万事休すである。中国は尖閣を自国領にして、台湾に影響を及ぼしたいと思っている。そうした意味で、尖閣諸島の重要性も浮かび上がってくる。