ロシア軍は9月30日、シリアでの空爆を実行した。場所は中部の町ホムス北方のエリアが中心だ。ロシア側はISの拠点を攻撃したと主張しているが、実際にはそこにはISはいない。同エリアを押さえているのは、アサド政権やISと対決している反政府軍の諸派である。つまりロシア軍は、ISの敵対勢力を攻撃したことになるわけである。
なぜロシアがそこを攻撃したのかというと、アサド政権を助けるためだ。実際のところISの支配地は、現在アサド政権が押さえている同国西部エリアからは遠く離れている。アサド政権は現在、軍事的に劣勢にあるが、その主要な敵は、ISではない反政府軍なのだ。したがって、アサド政権からすれば、ISよりも他の反政府軍を攻撃してもらえるのがいちばん助かることになる。
もっとも、ロシアはかねてISの脅威を喧伝しており、アメリカを中心とする有志連合にも「一緒にISと戦おう」と呼びかけていた。したがって、今回の空爆に至る過程でも、さかんに「IS討伐」を掲げていた。しかし、実際に行ったのはIS攻撃ではなく、他の反政府軍への攻撃である。言ってきたこととやっていることが違うわけだが、ロシアはそれを正当化する詭弁を巧みに使ってきている。その手法を、今回の事態に至る流れを振り返って検証してみたい。
最初から部隊の展開を準備していた
まず、ロシアがシリアに部隊を密かに展開し始めたのは、8月半ばのことだった。当時、プーチン政権はシリアへの軍事支援は公式に認めていたが、ロシア軍の直接展開は否定していた。しかし、ロシア軍の最新式の装甲車両や戦闘機の映像が現地から流れ始めた。それに対し、ロシア側は非公式なリークのかたちで、同月末には空軍部隊の派遣を認めている。この時点のロシアとしては、まだあまり国際社会で騒がれたくないのか、言論上の反応はきわめて小さい。