今日ほど決断が必要とされている時代はない。地球環境問題、大規模災害、少子高齢化、グローバル化など、私たちの社会はいくつもの難問に直面している。
これらの難問を解決していく上で、決断力のあるリーダーが求められている。では、どうすれば決断力のあるリーダーを育てることができるだろうか。九州大学の「持続可能な社会を拓く決断科学大学院プログラム」を立案し、実行している経験にもとづいて、決断力のあるリーダーの育て方について考えてみたい。
決断力とは何か?
リーダーの重要な仕事は、組織が進むべき方向を決定することである。この決定がしばしば組織の命運を左右するので、リーダーの責任は重大である。
とはいえ、組織の命運を左右する決定を、リーダーが自分の判断だけで行うわけではない。企業であれ、自治体であれ、組織には多くのスタッフがいて、さまざまな情報を集め、さまざまな提案を用意してくれる。多くの場合、リーダーの日常的な仕事はこれらの提案をチェックして決裁することだ。このような日常的な意思決定の妥当性を支えているのは、組織全体の力量だ。
下の図は組織における意思決定のプロセスを概念化したものである。何らかの課題を解決する上では、選択肢(対策案や事業案)を設定する必要がある。複数の有力な選択肢がある場合には、それぞれのコストやリスクとベネフィットを比較し、最適な選択肢を選ぶ。この段階で責任者が決裁を行い、対策や事業が実行される。その実行過程で生じた問題をチェックし、想定外の問題が生じた場合には選択肢を修正する。
このプロセスは、PDCAサイクルに似ているが、PlanとDoの間にDecision(決定)が入っている点が違う。日常的な意思決定では、このDecisionのプロセスは形式的な「決裁」で済まされているため、PDCAサイクルでは無視されている。