自衛官として勤務した30余年間、自衛権を発動する事案は起きなかった。大陸や半島の軍事力は弱かったし、日米安保と自衛隊が「抑止力」として機能してきたからである。
その抑止力を自衛隊の最高指揮官であった鳩山由紀夫氏は全く理解していなかった。「最低でも県外」と呼号した挙句、結局普天間基地の辺野古移設を再設定したとき、「初めて『抑止力』の意味が分かった」と語ったことから分かる。
現状は20年前や10年前の中国でも北朝鮮でも(また韓国でも)ない。衆議院平和安全法制特別委員会では日本を取り巻くこうした国際情勢の変化が問われなければならなかった。
しかし、野党が国際情勢を正面から取り上げることはほとんどなく、神学論争に終始して法制の必要性が国民に十分理解されないままであった。
民主党の自己撞着
衆院特別委での質疑時間は、与党の15時間余に対し、野党には90時間超が割り当てられた。野党の疑問点に答え、併せて国民の理解を得るためであったことは言うまでもない。
しかし、野党、中でも最大野党の民主党は、法案が目指す方向とは反対に「戦争法案」や「徴兵制復活」などと喧伝し、国民に真逆の印象を植え付けていった。
廃案に持ち込みたい党略とはいえ、国際情勢に目をつむった論戦で、国民の間では理解よりも不安が高まりを見せて行った。
法案で使用されている用語も難解であるが、質問に立つ委員自身が咀嚼していないと思われる節も多く、政府が答弁に戸惑うと逆手にとり、すかさず「まともに答弁できないのか」「法案が煮詰まっていないからだ」などと批判する有様であった。
中でも、6月4日の憲法審査会で自民党推薦の長谷部恭男早大教授が「安保法案は憲法違反」と表明したことを楯に、民主党は我が意を得たりと廃案を目指す動きを加速させていった。
こうした反省を踏まえ、7月27日から始まった参院特別委では中国が軍事力を著しく増強していること、また北朝鮮が核兵器開発に尽力していることなど、現実の脅威を具体的に示しながらの論戦を重視するようになり、かなり分かりやすくなってきた。
ただ、安保法案について民主党は与党の強行採決を「議会制民主主義の破壊」などと論難してやまないが、その主張は民主党政権が実際行なってきたことと矛盾している。