債券相場の下落幅が大きくなっている。
9月6日の国内債券市場では、金利低下局面とその後の反転上昇局面の主役である超長期ゾーンに打診買いが入る場面もあったが、民主党代表選と同じ14日に予定されている20年債入札への不安感もあり、結局は売りに押される展開。20年債利回りは一時1.910%まで上昇した。10年債利回りは、筆者が当面のレンジになるとみている1.00~1.20%の上限に近い1.195%まで売り込まれた。債券先物9月限は一時141.07円まで下落。中短期ゾーンも、円金利スワップ市場で固定払い圧力が朝方から強い中で、地合いが徐々に悪くなり、5年債利回りは0.360%に上昇した(9月7日は0.370%へとさらに上昇)。円金利先物市場では、中心限月である2011年6月限が99.680(金利ベース0.320%)まで急落した。
今回の国内債券相場急落に関連して、筆者が強調しておきたいのは、以下の3点である。
(1)「日本型デフレ」というフレーズに象徴される、米国経済についての悲観論のオーバーシュートと、米連邦公開市場委員会(FOM)における追加緩和への期待感の膨張が、内外で国債イールドカーブのブルフラット化を加速させた。だが、そうした市場の「思惑・期待・ムード」には、「現実」の経済指標や政策運営がキャッチアップしてこないことが次第に明らかになってきたため、債券相場は急落を余儀なくされた(2003年6月の事例と、様々な点でよく似ている)。
(2)短期間限定のリスクテイカーとして登場した銀行勢が、値上がり益を狙って超長期ゾーンの債券へのディーリング的な買いを強めたことが、金利低下が加速する原動力になった。だが、そうした買いには時限性があり、そもそも9月決算期末までのいずれかの時点で利益確定の売り戻しが活発になる性格のものだった。超長期債が大きく売られ始めた1つのきっかけは、民主党代表選に小沢一郎前幹事長が出馬するとの報道だったとされている。だがそれは、超長期債を売り戻すためのきっかけを提供したにすぎず、本質的な債券相場の下落原因ではないというのが、筆者の考えである(小沢候補がやや不利というマスコミの情勢分析が出た後も、債券相場は下落を続けたことに留意。また、どちらの候補が勝っても、「ねじれ国会」ゆえに政策停滞が続く可能性が小さくない)。
(3)超長期ゾーン主導の債券相場調整の波は、9月6日には中期ゾーンにも一層はっきりと及んできた。だが、中期ゾーンの金利上昇については、市場における日銀の金融政策見通しの変化を反映したものであるとは考え難い。円高対策としての翌日物金利引き下げ予想が市場の一部で出ていたが、8月30日の臨時金融政策決定会合で否定され、それを市場はその時に織り込んだはず。日本が慢性的なデフレを脱する兆しはなく、為替市場ではなお円高ドル安地合いが続いている。金利上昇で投資妙味が増した超長期ゾーンでの水準感からの買いに加え、あるいはそれ以上に、中期ゾーンにおける押し目買いの強まりと金利水準の安定が、債券相場が態勢を立て直す上で必要なことであろう。筆者が「鯛の頭」に例えている国債イールドカーブの根元部分がいま一度安定することで、イールドカーブ全体も安定感を取り戻しやすくなるわけで、それが文字通り、債券相場の「足場固め」となる。
債券相場が不安定な動きをしているさなかの9月6~7日に、日銀金融政策決定会合が開催された。8月30日の臨時会合で追加緩和を決定したばかりだったので、金融政策は市場の予想通り、全員一致で現状維持。むしろ注目されたのは、対外公表文における景気などについての記述内容変更だった(8月30日の場合は臨時会合だったため、景気についての詳しい記述は、対外公表文の中に盛り込まれなかった)。