とうとうエジプトが牙をむいた。
2月16日早朝に行われた、エジプト空軍のF16戦闘機によるリビアの「ダーイシュ」(いわゆるイスラム国)への報復行為は、エジプト国民の声を受けたエジプト国家とエジプト軍の強固な意志を示すこととなった。
エジプト軍が公表したビデオ声明では、「エジプト国民よ、我々は、国防評議会の決定にもとづき、偉大なるエジプト国民の治安と安定を守るというエジプトの権利に鑑みて、国の内外におけるテロ組織による犯罪行為に対する復讐と報復を実行する」と述べ、「犯罪者たちに対するエジプト国民の血の復讐は、我々の権利であり、それを実行することは我々の義務である」と高らかに宣言した。
リビアにおける21人ものエジプト人コプト教徒の惨たらしい虐殺は、温厚なエジプト人たちを本当に怒らせた。彼らは、リビアのダーイシュが言うような「十字軍兵士」などではなく、コプト教徒が多く住む“上エジプト”(エジプト南部の地域)のミニヤ県北部の貧しい地域サマルートから、リビアに出稼ぎに行っていた労働者にすぎないのだ。
彼らに何の咎があるのだろうか。彼らの仮葬に7000人もの地元の人々が参加し、大粒の涙を流したのは、無理もないことだ。彼らは、貧しさゆえに混乱が続く危険なリビアでの出稼ぎを続けざるを得ない運命にあったのである。
ダーイシュの「模倣犯」が突きつけるエジプトの治安問題
実は、2014年の1年の間に、リビアにおいてすでに14人のエジプト人コプト教徒が、イスラム主義過激派組織によって命を奪われているのだ。リビアのダーイシュが、確信的にエジプト国内においてイスラム教徒とコプト教徒との間の宗派対立を深めようとしていることは間違いがない。今回、エジプト政府がこのような報復行動をとった背景には、エジプトが直面する、深刻さを帯びる国内治安状況があることも指摘せねばならない。
すでに、シナイ半島の過激派である「アンサール・バイト・アル・マクディス」(ABM)(エルサレムの支援者)が、昨年11月10日にダーイシュへの忠誠を誓い、自らのことを「イスラム国シナイ州」(Wilayat al-Sinai)と名乗るようになった。エジプトに国境を接するリビア東部のデルナでもまた、昨年10月5日には、地元の過激派である「イスラム青年シューラー会議」が、ダーイシュ本体から派遣された指導者であるアブルバラー・アズディに率いられ、「イスラム国キレナイカ州」(Wilayat al-Barqa)を自称するようになっている。