1代目が生み、2代目が傾け、3代目で潰す――。昔から言われてきた中小企業の一生を物語る1つのパターンである。起業家の志と理念、チャレンジ精神が次第に乏しくなるとこのようなパターンにはまりやすいという戒めでもある。

下請けに甘んじては明日が来ない

鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」を手にする愛知ドビーの土方邦裕社長(左)と智晴副社長

 しかし、時に傑出した経営者が登場することがある。その場合にはのちにその経営者のことを世間では中興の祖と呼ぶようになる。鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」を製造販売する愛知ドビー(名古屋市)は、ほぼ間違いなくこの道を歩み始めている。

 祖父の代に土方鋳造として創業、戦後、日本が急速な工業化を進める中で順調に成長していく。しかし、プラザ合意後の円高やバブル崩壊で仕事量が激減、さらにその後の長引くデフレが企業の体力を奪っていった。

 同社の周りにはトヨタ系の部品メーカーが多い。トヨタ自動車の下請けとしてトヨタに頼っていれば厳しい環境下でも何とか食べていくことはできる。しかし、それは経営も技術もほとんどトヨタに握られることを意味する。

 徹底したコスト削減と低賃金労働を強いられ、トヨタ本体が万が一苦しくなったら真っ先に切られる緩衝材の役割を背負わされる。

 そんな世界に甘んじるか、それとも事業をやめるか、3代目の土方邦裕氏が入社したときの同社はそんな苦しい選択を迫られていた。しかし、社長となった邦裕氏が選んだのはそのどちらでもない、第3の道だった。

 これまで培ってきた鋳物技術を生かし、食材の良さを生かせる調理鍋とされる鋳物ホーロー鍋を開発することだった。「経営を自立させるには最終製品を作って直接消費者に販売しなければならないと考えたのです。そして世界最高の製品を作る」。邦裕氏はこう語る。

 「良いものを安く大量に」という時代は豊かになった日本ではほぼ終わりかけている。価格は高くてもいいから顧客のニーズに合った世界最高級の製品を作らなければメーカーとして生き残れない。

 その点、熱伝導率が高いうえに内部に細かな気泡がある鋳物ホーロー鍋は保温性も高く、高度な調理を必要とするプロからも非常に高い評価を受けている。鋳造と機械加工に高い職人の技を持つ同社としては進出したい分野だった。

 しかし、鍛造の鉄と違い鋳物は中に大量の炭素を含み、また気泡も入りやすいのでホーロー鍋にするのは極めて難しい。またホーローをコーティングする際の高い熱で鍋がひずみ、蓋でしっかり密閉させることも高度な技術を要する。