「本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。
企業を取り巻く利害関係者との関係を表す「(その3)共存共栄」は「本流トヨタ方式」の根幹を成す考え方であり、行動規範でもあるので、詳しく説明しています。
前回は、トヨタ自動車が豊田地区を離れて田原に進出したことで、その後、海外に出ていく際に役立つ貴重な体験をしたお話をしました。今回はその続編として、地域や行政との関係づくりを通して学んだことをお話しします。
優良企業は自治体にとって金の卵を産むニワトリ
一般論として、ある企業が工場を設立する時、どのような要件でその場所が決まるかについて考えてみましょう。
地域の自治体(行政機関)にとっては、住民の雇用を確保でき、税収も上がることになるので、優良企業は金の卵を産むニワトリのように見えます。自分の地域に誘致したいと思うのは当然でしょう。
それゆえ、多くの自治体では特別な予算を組み、いわゆる工業用地を造成し、取り付け道路や上下水道を整備して優良企業の誘致活動をします。関係する議員も、地元へ優良な企業を誘致しようと極めて熱心に活動します。
筆者も、物流管理部の部長として物流の実権を握っていた時には、何人かの議員さんから地元に「大きな港」を造るから使ってもらえないか、といった話がありました(部長のところにさえ来るのですから、企業トップの皆さんの所にはたくさんの話がやって来ることでしょう)。
一方、一企業が単独で、ある地域に工場を造りたいと思っても、決して簡単にはできません。建屋や機械装置などに多大な投資を伴い、間違えれば会社を潰すことにもなりかねない位の負担になりますし、用地買収や上下水道、取り付け道路の整備などまで、民間企業が独自に実施するのは大変難しいと言わざるを得ません。そこで多くの場合、地方自治体が整備した工業用地の一角を購入し、そこに工場を建設することになります。
その実態は、と言いますと、ジャスト・イン・タイムを標榜しているトヨタでも、「必要な時に、必要な場所に、必要な面積」の工業用地を入手する訳にはいきません。トヨタは「将来を見越して、必要と予測される場所に、多めの面積」の工業用地をある数量確保していると先輩から教えてもらった覚えがあります。
本流トヨタ方式では、「ものづくり」を本業とする企業が「投機的」なことにお金を使うことを厳しく戒めています。しかし一方で、なかなか買い手の付かない工業団地をあえて買うというのは、常日頃お世話になっている自治体への恩返しの側面があります。それは、トヨタ車を愛用して下さるお客様との共存共栄であり、「地域への貢献」でもあるのだと先輩から教わりました。