マット安川 気鋭の政治経済学者・植草一秀さんが初登場。円安から見える日本経済の現状や経済学の歴史をお聞きしました。
株価上昇は偶然の産物、安倍首相は「運」が強い
植草 日本経済は、2012年に安倍(晋三)政権が発足し、少し浮上できるのかなという期待が広がっているわけですが、まだまだ不透明なところがあると思います。
アベノミクスで株価が大幅に上昇した背後には、円安の進行があります。これはまさにアベノミクスの成功の証だと一般的には言われていますが、私の見解では、たまたま米国から来た大きな波にうまく乗るのに成功したにすぎません。
どういうことかと言いますと、日本の株価はこの7~8年ほど、完全に円ドルレートに連動しています。円安になると株価が上がり、円高になると株価が下がる。この円ドルレートはどういうふうに決まっているかを調べると、米国の金利が上がるとドルが上がり、金利が下がるとドルは下がる。
実は2012年7月に米国の金利は史上最低の水準に下がり、翌13年に上昇しました。この金利の上昇でドルが上がった。ドルが上がって円安になると、もれなく日本の株高がついてくる。この波にちょうど安倍さんは乗った形です。
安倍政権の貢献がゼロとは言いませんが、非常に運のよいスタートを切ったというのが実態です。その意味では、安倍さんは非常に運が強いと思います。
ただ、さまざまな経済統計を見ると、消費税増税後の4月以降の経済状況は非常に厳しいものとなっています。このまま下り坂を転げ落ちてしまうのか、もう一度浮上できるのか、それは今後の経済政策にかかっています。
増税の裏で暗躍する財務省の情報操作機関「TPR」
消費税を5%から8%に上げる際に、日本経済新聞などを中心にメディアでは消費税増税の影響は「軽微」であるという報道がずっと展開されていました。ところが、4~6月期のGDP(国内総生産)を見ると、消費税増税の影響は軽微ではなかった。
実は、私が1985~87年に大蔵省(財務省)にいた時に、「TPR」というプロジェクトが発足しました。これはTax(税金)のPRを略したもので、要は税に関する広報です。
狙いは、当時の中曽根(康弘)政権が売上税という消費税の前身にあたるものを導入する計画を持っていて、その売上税を導入するための情報統制、世論操作にありました。