ソウル中央地検(韓国)は、産経新聞ソウル支局長のウエブサイト掲載コラムが朴槿恵大統領の名誉を棄損した疑いで、10月2日に3度目の事情聴取した。既に6回にわたる出国禁止処分を行い、支局長は2か月近く出国できない状況に置かれている。

 コラムの元になった朝鮮日報や記者は訴えられていない。報道・表現の自由がなく、法治が機能しない疑似民主主義国家の印象が強い。

内外の各種機関が懸念や憂慮

韓国旅客船沈没、死者25人に 不明者家族 大統領に詰め寄る

沈没したセオゥル号の行方不明者の遺族と会う朴大統領〔AFPBB News

 支局長の記事は8月3日、「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に・・・誰と会っていた?」と、やや扇情的なタイトルであるが、韓国内の情報に基づいている。しかし、「韓国で上がる産経新聞を地球上から抹殺せよとの声」(JBpress8月28日)などが、当局を依怙地にしているのかもしれない。

 支局長の拘束には日本政府をはじめ、多くの言論機関などが懸念や憂慮を表明している。在韓国の外国特派員らでつくる「ソウル外信記者クラブ」は8月14日、緊急理事会を開催して「高い関心を持ち注視していく」ことを確認した。

 産経新聞東京編集局長は支局長が出頭した18日、「大統領を誹謗中傷する意図は全くない。当該コラムが問題視されたことは理解に苦しむが、捜査には真摯に応じる。韓国司法当局が民主主義国家の根幹である報道の自由、表現の自由に照らし合わせ、公正に判断されることを期待する」とコメントした。

 日本外務省は事情聴取の翌19日、「非常に残念だ。韓国政府当局はこの問題に慎重かつ適切に対応することを強く期待している」と述べ、併せて「民主主義の国では言論の自由、報道の自由はしっかりと保障されるべきだ、という考え方が基本的原則だ」と強調した。

 国連事務総長報道官は「国連は常に『報道の自由』や『表現の自由』を尊重する側に立つ」と明言し、日本新聞協会編集委員会も「強い懸念」を8月下旬に表明している。

 9月に入ると、国際ジャーナリスト組織の「国境なき記者団」が「メディアが大統領を含む政治家の行動をただすのは、全く正常なことだ。国家的な悲劇のさなかにおける大統領のスケジュールの曖昧さは明らかに公共の利益に関わる問題だ」と指摘したうえで、「支局長の行動の制限を解くよう求める」(8日)とした。

 日本ペンクラブは、韓国当局の対応を「深く憂う」と批判する声明を出した(16日)。

 米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版・社説)は、「刑事上の名誉棄損に関する法律がいかに言論の抑圧に使われるかの実例だ。韓国の記者が事情聴取されず、韓国にほとんど読者がいない外国の新聞記者が聴取の対象になっていることに疑問を投げかけた」と批判したうえで、「(1)かつての支配国の組織と戦うことで国内の怒りを逸らす、(2)韓国の記者が朴氏の危機対応に関する批判記事を執筆することを抑止する―という意図がある」(「産経新聞」9月17日付)と分析する。