広島と長崎が核攻撃を受けた日が近づくと、福島第一原発事故を原爆攻撃とオーバーラップさせて、原子力発電所は核兵器のようなものだといった論調が浮かび上がってくる。しかしながら、このような比喩は、若干正しい点はあるが、決して正確な比喩とは言えない。

 核兵器は、強烈な核爆発により発生する衝撃波、熱波、放射線によって攻撃目標周辺を広範囲にわたって瞬時に破壊することを目的とした兵器である。結果として、核攻撃を受けた地域には放射性物質が拡散して放射能汚染を引き起こすこともあり得る。

 (広島・長崎の場合、空中で爆発した原爆が超高温だったので放射性物質の大半が瞬時に気化してしまった。そのため、福島第一原発事故よりは放射能汚染の程度が低かったとされる)

 だたし、核兵器はあくまで核爆発による破壊が目的であり、放射能汚染は副作用ということになる。

放射能兵器になりかねない原子力発電所

 核兵器と違って、放射性物質を拡散させて放射能汚染を引き起こすことを目的とする兵器を「放射能兵器」あるいは「放射性物質拡散装置」(RDD)と呼ぶ。厳密には放射能兵器には様々な種類が存在するが、「ダーティーボム」と呼ばれる装置が放射能兵器の代名詞となっている。広範囲にわたって放射性物質を撒き散らす強力な放射能兵器は製造が困難であり、通常は狭い範囲を汚染させる放射能兵器をテロリストなどが使用するおそれがあるとされている。

 また、強力な放射能兵器を軍隊が手にして敵を攻撃した場合、攻撃した敵地が放射性物質により汚染されてしまい、自軍自身も進撃できなくなってしまうため、通常の国家間戦争では価値の低い兵器と考えられている。そのため、正規に放射能兵器を装備している軍隊は見当たらない。