「クールジャパン」の代表といえばマンガやアニメだが、その人気に負けず劣らず海外で引っ張りだこの日本製品がある。農機具だ。水田や畑で使われるトラクター、田植え機、コンバインといった機械である。

旺方トレーディングの本社。社員数は約50名。売上高(2013年度)は約10億円。その約6割が輸出の売り上げである。

 鳥取自動車道・鳥取南インターを降りてすぐ、田園が広がる地域の一角に、金型工場を改装した大きな倉庫が建っている。近づくと、倉庫の周りに古い農機具がずらりと並んでいるのが目に入る。どれも相当年季の入ったものばかりだ。多くは泥にまみれており、ボディーがへこんでいたりライトが割れていたりするトラクターもある。

 これらは解体されるのを待っているわけではない。ここでトラックに載せられ港に運ばれて、海外に輸出されていくのだ。これだけ古いと引き取り手がいないのではないかと思ってしまうが、日本製の農機具は海外で人気が高く、ちょっとぐらいへこんでいようが錆びていようが各国の農機具店が喜んで買い取るのだという。

本社の敷地にぎっしりと並ぶ中古農機具。輸出先は東南アジア、ロシア、ヨーロッパなど。約7割がヨーロッパ向けだという。

 旺方トレーディング(鳥取市)は1995年の設立以来、毎年約20%増の勢いで売り上げを拡大してきた。当初は日本の中古農機具を海外のみに販売していたが、リーマン・ショックを機に国内市場にも参入。現在は国内の農機具店や商社にも販路を広げている。

 2008年に立ち上げた「農機具買取ドットコム」は日本最大級の中古農機具買い取りサイトとなっている。同社は買い取りから輸出、販売までをすべて自社で行う。中間マージンを抑えることで高値の買い取りを実現しており、農家からの問い合わせがあとを絶たない。

 だが、ここに至るまでの道のりは決して平坦なものではなかった。幸田伸一社長はカネもコネもない状態で自ら海外に足を運び販路を切り開いていった。業界の慣習を打ち破るような思い切った挑戦もあった。幸田社長に、これまでの市場開拓の軌跡と事業にかける思いを聞いた。

中古農機具を売買する市場はなかった

──実家は鳥取の兼業農家だそうですね。やはり将来は農業関係の仕事をしようと思っていたんですか。

幸田伸一社長(以下、敬称略) いいえ、全然思っていませんでした。

──それがどうして農機具でビジネスをするようになったのですか。