井本 新潟県には原発稼働に厳しい目を向ける泉田裕彦知事という「壁」もありますから。
北海道電力では泊原発の再稼働のメドがつかない中で業績が悪化、このままでは債務超過になると危惧する川合克彦社長が資源エネルギー庁の制止を振り切る形で、今年2月に電気料金の値上げ申請を表明しました。
安念 企業経営者として当然の行動でしょう。債務超過を回避するためには原発再稼働か、値上げするしかない。
井本 茂木敏充経済産業相は「(経費削減への)ありとあらゆる努力を行うことが重要」と言いましたが。
安念 もちろん人件費も含め経費削減の努力は欠かせません。でも、火力発電の燃料費に比べたら、他のコストはケタ違いに小さい。
政投銀による北電優先株引き受けは弥縫策
井本 そこで、政府が用意したのは日本政策投資銀行による北電の500億円分の優先株引き受けでした。
安念 いささか姑息です。政投銀の資金調達先の3分の1から半分は財政投融資ですから、形を変えた公金の投入で、しかも500億円なんて一時しのぎにしかなりません。泊原発が動かなければ早晩、再び債務超過が迫ってくる。展望のないつなぎ融資で、当面の事態を糊塗する弥縫策です。
井本 4月に消費税が上がった今、電力料金まで上げては有権者の反発を食らって安倍政権の支持率が下がる。それを恐れて弥縫策に動くのでしょうね。
安念 原発の稼働停止でどこの電力会社も業績は悪化しています。誰しも値上げは歓迎しませんが、このまま原発が停まっている状態が続くのであれば、もう弥縫策は止め、原発が動かないことを前提に値上げするしかないでしょう。その代わり再稼働した時は、すぐに値下げすればいいと思います。
井本 なるほど。一方で、原発を再稼働するという方法もありますね。安念先生は以前から「定期検査の終えた原子炉は再稼働できる。原子力規制委員会に再稼働の審査権はない」と言っています。
安念 ええ、電力会社は規制委員会の設けた新規制基準に適合するように原子炉関連機器の新増設や必要な工事を行わなければなりません。しかし、そのために運転停止までする必要はありません。現在、電力各社が規制委に申請しているのは、原子炉等規制法に基づく原子炉設置変更許可をはじめとする許認可ですが、この許認可の審査手続と原子炉の運転は並行してできるんです。
政府も今年2月、菅直人議員(元首相)の質問主意書に対し、「原子炉等規制法には、原子力規制委員会が原子炉の再稼働を認可する規定はない」と答弁しています。