ずいぶん久しぶりに、日本が直面する大きな課題について、文字通り地球儀を俯瞰しながら話せる人物と知り合いになった。その人は、いくつかの全く異なる言葉を母国語のように操りつつ、筆者に、マシンガンで「知恵」の弾丸をぶつけるかのごとく語りかけてくる。

 知恵の塊というのは、このような人物のことを言うのだろう。

 アジアから中東、歴史から文学まで縦横無尽に語る。ウクライナにおけるロシアの「モンゴル的資質」を語ったかと思えば、戦争をしても残虐なことは決してできない、エジプト人の「農民的」な性格について、冷血なシリア人の性格と対比しながら解き明かす。

 そう、アメリカの戦略論の碩学、エドワード・ルトワック博士である。日本では『自滅する中国』(芙蓉書房出版)という簡潔で分かりやすい戦略の本を書いた人物として知られている。

生死ぎりぎりの体験に裏付けられた知恵

 ルトワックの人物像を一言で説明することは実に難しい。象牙の塔で本ばかり読んでいるような、ブッキッシュな知識人ではないからだ。

 もともとルーマニアの富裕なユダヤ系家庭に生まれたルトワックは、第3次中東戦争や第4次中東戦争にも、イスラエルの一兵士として参加している。アラビア語で筆者と会話を始めると、戦争中に教養豊かなシリア人を尋問したので古典アラビア語をよく学べたと、嬉々として言う。

 1982年のイスラエルのレバノン侵攻でも、斥候兵としてPLOから奪った車に乗り込み、ベイルートを越えて、レバノンの北部まで進出し、ライフルを担いで行く手に潜む敵を制圧したという。

 イラク戦争後には、クルド地域のエルビルからバグダードまで体一つで、テロのリスクがあるにもかかわらず、自ら自動車を数時間運転して、筆者とも共通の知り合いの著名なイラク人政治家のところまで遊びに行ったらしい。