習近平政権は昨年11月に発表した三中全会決定の中で、今後取り組まなければならない構造改革の骨格と重要施策を提示した。その中には、既得権益層の強い抵抗が予想され、実現まで時間を要するものも多い。そうした重要施策のうち、上海自由貿易試験区関連のプロジェクトは早期実施が期待されている数少ない施策の一つだ。
構造改革の実施が遅れる要因
ところが、その上海自由貿易試験区に関して、改革実施のスタートラインとなる実施細則の発表が遅れている。同試験区ではすでに金融、税制等の分野において具体的な施策の実施が計画されているが、実施細則が発表されないと、それらを実施に移すことができない。今年の1月頃から実施細則の発表の遅れが指摘されていたが、現在も依然未公表のままである。
遅れの原因として、以下の点が指摘されている。これらの要因は、上海自由貿易試験区のみならず、その他の構造改革の重要施策実施においてもほぼ共通した問題である。
第1は、政府内部の関係部門間の調整の遅れである。
上海自由貿易試験区を管轄するのは上海市政府であるが、上海市は北京、天津、重慶とともに中央政府直属の直轄市である。直轄市は他の市とは異なり、市でありながら広東省、広西チワン族自治区といった省・自治区、あるいは中央政府の財政部、商務部といった「部」(日本の省に相当)と同格である。
このため、上海自由貿易試験区で新たな施策を実施するには、そうした同格の行政組織との関係で行政制度上の整合性を確保するため、事前に様々な調整が必要となる。
このレベルの組織の長はすべて大臣級であるため、相互間の調整には大臣級の上位に当たる副総理以上の関与が必要となる。重要決定には習近平主席、李克強総理を巻き込んだ調整が必要になることもある。このため、全ての関係部門間の調整にはかなりの時間と労力が必要となる。これが構造改革施策を実施に移す上でのボトルネックになっている。
とくに習近平主席が、中央全面深化改革領導小組、国家安全委員会、中央ネット安全情報化領導小組など改革実施の中核となる重要組織のトップを独占していることから、多くの重要決定は習近平主席による決裁が必要になる。
しかし、習近平主席は内政・外交両面で多忙を極めるため、時間的制約が厳しい。これが決裁の遅れを招いていると指摘されている。
ただし、改革の中味が重ければ重いほど、最終判断・決定に際しての政治的重圧も高まるため、たとえ習近平主席が他の政治局常務委員や副総理等に決裁権限を委譲したとしても、委譲を受けた当人が改革を迅速かつ的確に進めることができる保証はないとの指摘もある。
したがって、習近平主席に決裁権限を集中しても、それを他のリーダーに委譲したとしても、いずれにせよ迅速な改革実行力には不安が残るのが実情である。