輸入物価は上がるが国際競争力は下がる

 日本の人件費は、まだ世界的に見ると高い。特に国際競争の激しい製造業では、賃金は新興国の水準に近づき、単純労働はアジアに外注されて雇用が減る。このため単純労働の需要が減り、製造業より生産性の低いサービス業の需給が悪化して非正社員が増え、賃金が下がる。それが「デフレ」と呼ばれる現象の最大の原因だ。

 つまりデフレは国際競争の結果なので、結果を変えて原因を変えることはできない。日本の国際競争力を表わす交易条件が悪化しているからだ。

 交易条件は輸出物価/輸入物価の比で、これが下がるのは輸出品で買える輸入品の価格が上がったということだが、図1のように2000年以降、40%以上も交易条件は下がった。日本の立地条件は急速に悪化しているのだ。

図1 日本の交易条件の推移(出所:日銀)

 この傾向が逆転したのは2009年に原油価格が暴落してエネルギー収支が改善したときだけだが、その後の原発停止と円安で貿易赤字が激増し、交易条件は悪化の一途をたどっている。製造業の海外シフトは止まらないだろう。

人手不足は「事件」の前兆

 黒田総裁は自信満々だが、人手不足の原因は彼の信じているように内需が強いからではなく、以上のような労働需給のミスマッチと輸入インフレだ。雇用の中身も、正社員が減って非正社員が38%を超えた。

 金融政策の効果を示すコアコアCPIは前月より下がっており、直近の物価を示す東大物価指数もマイナスだ。景気の悪化する中で物価だけが上がるスタグフレーションの兆しが見えている。