いよいよ1月20日にオバマ新大統領が就任する。米国民の期待は高く、昨年末には80%を超える歴史的な支持率を記録した。ただ、新大統領を待ち受ける議会は、一般国民ほど優しくはない。第111回となる6日に始まった新議会では、上院の空席の指名をめぐり、純粋なウェルカムムードに水を差す状況が出てきた。
オバマ政権の喫緊課題は金融危機を脱するための景気刺激策であり、早期の法案成立を期待している。ところが、議会開会直前の1月4日、与党・民主党のリード上院院内総務、ホイヤー下院院内総務のいずれもが、就任式に合わせて成立させることは難しいとの認識を表明した。
加えて、オバマ次期政権の商務長官に指名されていたリチャードソン・ニューメキシコ州知事に対し、選挙資金を提供していた企業が同州政府の仕事を不正に得ていたという疑惑が浮上。リチャードソン氏は指名辞退を余儀なくされ、新政権自体の門出にも暗雲が漂ってきた。
汚職疑惑イリノイ州、タレント辛勝ミネソタ州
新政権ではオバマ大統領をはじめ、バイデン副大統領、ヒラリー・クリントン国務長官、サラザール内務長官の4人もの現職上院議員が入閣する。このため、空席への後継候補の指名をめぐり、既に様々な問題が起こっている。
日本の常識ではピンとこないが、空席となった議席の任命権は州知事の手にある。これが問題の種だ。
まず、オバマ次期大統領の辞職で空席になったイリノイ州の議席。「後継上院議員の指名見返りに賄賂を要求した」とされる民主党のブラゴジェビッチ州知事が昨年末、FBIに逮捕された。無罪を主張する知事は法廷で闘う意向を表明し、年明けにはオバマ上院議員の後任としてローランド・ブリス氏を指名した。ブリス氏は長年イリノイ州の司法長官を務め、清廉潔白な人物のようだ。だが、何せ経緯が経緯だけに、上院民主党の指導部はブリス氏の受け入れに難色を示す。
ブリス氏を指名したブラゴジェビッチ知事に対し、イリノイ州では史上初の知事弾劾裁判が間もなく始まるため、可能ならばブリス氏を上院議員としては認めたくないのが上院民主党の本音だ。
ブリス氏が黒人であることが、話をさらに複雑にする。もし上院民主党が認めなければ、それは上院唯一人の黒人になるためだとして、ブリス氏はメディアに訴えるつもりのようだ。黒人から90%以上の支持を得て就任するオバマ新大統領の門出を前に、人種差別や収賄といったスキャンダルでメディアを賑わす事態は民主党も避けたいところ。その一方で、民主党がブリス氏を受け入れても、今度は野党・共和党が同氏の「正統性」に厳しい審査で臨むのは必至だ。
ほかにも、上院民主党は幾つかの頭痛の種を抱えている。1つは、大接戦となった11月のミネソタ州上院議員選。再集計の結果、わずか49票差で勝利した民主党候補アル・フランケン氏の上院議員就任に対し、共和党候補のノーム・コールマン氏が法廷闘争に入る可能性があり、それ見越して上院共和党がフランケン氏の承認に難色を示し始めた。フランケン氏は人気テレビ番組「サタデー・ナイト・ライブ」出身の有名コメディアンであり、こじれて裁判沙汰になれば全米の話題となり、これもオバマ新政権の門出に水を差してしまう。