ニッケイ新聞 2014年2月4日

 1月31日、ブラジルのテレビ界で史上初の出来事が起こった。それは、男性同士のキス・シーンをブラジル製作のテレビ番組がはじめて放送したことだ。

 キスの当事者となったのは、グローボ局の夜9時のテレノヴェーラ「アモール・ア・ヴィーダ」の主要人物、フェリックス(演じるのはマテウス・ソラーノ)で、恋仲のニコ(チアゴ・フラガーゾ)と、この日に放送された最終回で堅く抱き合い、熱くキスを交わすというものだった。

 ブラジルのドラマでは過去にも同性愛キャラクターは数多く存在してきたが、中でもフェリックスは卑劣な言動で悪役からスタートしつつ、徐々に人間性を回復して後半は愛すべきキャラクターへと劇的に変わっていったことで視聴者の人気と共感を呼んでいた。

 このフェリックスの存在感が、グローボ局伝統の夜9時台の番組の権威失墜も救った。この時間帯のドラマはブラジルで必ず視聴率トップを飾ってきたが、前作の「サウヴェ・ジョルジ」は平均視聴率が過去最低の30.8ポイント(90年代までは40ポイント超えが常)という低調な数字に終わった。

 その影響もあり、「アモール・ア・ヴィーダ」も序盤は過去最低を更新しそうな勢いではじまっていたが、フェリックスの効果で最終回近くには50ポイントに迫る数字を記録し、結局平均35ポイントまで回復させた。

 このキス・シーンはブラジルの同性愛コミュニティの間で話題となり、放送が終わったあとの2月1~2日のブラジルのツイッターやフェイスブックでの話題はこれ一色となった。

 ブラジルでは、サンパウロで大きなゲイ・パレードが毎年行なわれる一方、そのゲイ・パレードの会場と同じ通りのパウリスタ大通りで同性愛者への襲撃事件が話題となるなど、同性愛者への偏見の強さが垣間見える瞬間も少なくない。

 このキス・シーンに、福音派の牧師で人種差別、同性愛差別の強いイメージをもたれながらも下院の人権委員長をつとめ、2013年の間、ブラジルの同性愛者の敵役的存在だったマルコ・フェリシアーノ下院議員はツイッターで「キスをするんじゃないかと思っていたよ」と苦々しいコメントを発していた。

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