「週末はボリウッド・パーティーで熱く盛り上がろう!」――そんなメッセージが携帯電話に入った。

 上海でボリウッド・パーティーとは意外な感じもあった。「ボリウッド」とはインド・ムンバイの映画とその産業全体の呼称である。もしかするとここ上海でインド文化への関心が高まっているのだろうか。10月19日、筆者は外灘にある会場に足を運んだ。

 テーブルにはインドの国旗が飾られ、インド出身者とおぼしき人々もちらほら。しかし、筆者が期待した「地元の中国人と上海のインド人が大いに盛り上がる」という光景は、そこには存在しなかった。ボリウッドに反応したのは、若干のインド趣味を持つ欧米人だったようだ。中国とインドの民間交流は、日中間に見る民間交流の活発さには及ばない。中国とインドはまだまだ遠い国なのである。

 もともと中国とインドは仲が悪い。中国の一般大衆もインドにはいいイメージを持っていない。1962年に国境問題から紛争に至った両国は、政治面・外交面でいまなお緊張した関係が続いている。

 中印国境紛争以降、軍事的衝突こそなかったが、国境問題をめぐる対立は常に潜在していた。1975年、インドがヒマラヤの王国シッキムを併合した際、中国は激しくインドを非難した。また現在インドが実効支配するアルナチャル・プラデーシについて、駐印中国大使が「すべて中国の領土だ」と主張し、インド国内で激しい反発を買ったこともある(参考:「インドの対中関係と国境問題」『境界研究』、吉田修、2010)

 さらにここ数年、再び雲行きが怪しくなってきている。インド側には「2009年以来、自国領土の2000平方キロメートルを中国が実効支配するようになった」(環球時報)との認識があり、これを「中国が新疆ウイグル自治区からチベットまでを防衛するための国家戦略だ」とする見方もある。

インドの実効支配地域に人民解放軍が侵入

 2013年4月には、インド北部のジャンムー・カシミール州に属するラダック地方で、インドが主張する国境線を10キロも越えて人民解放軍が侵入してくるという事件が起きた。

 翌5月に中国の李克強首相はインドを訪問し、シン首相との会談で融和ムードを演出したものの、それでも国境地帯における両国のにらみ合いは続いていた。

 「NDTV」や「Hindustan Times」など複数のインドメディアは、中国人民解放軍がインドの実効支配地域であるラダック地方のチュマに繰り返し侵入し、監視カメラや防壁などを破壊するなどの行為に及んだほか、国境付近で道路や空港などの整備を進めていたことを報道した。一触即発に近い状態だったとも言われている。