経済が回復している米国で、不気味なまでにいつまでも回復しない社会現象がある。1つは雇用。もう1つは米国人の運転距離である。車の走行距離の積算は、2005年をピークに減り続けている。つまり、米国人は以前より運転しなくなっている。

 積算運転距離の減少だけでなく、今年に入って発表されたいくつかの調査結果は、米国人の車に対する意識変化を如実に示している。

 米国の象徴であり、基幹産業である自動車。大手自動車メーカーも、メーカーの労働組合も、共に絶大な政治力を持っている。当然、調査結果に嫌悪感を示し、車離れは不景気による一過性のものだと“火消し”に躍起になっている。

 「車依存症」とも言えた米国社会は、変わろうとしているのだろうか。もしそうだとしたら、その影響は計り知れない。街づくりも公共事業の計画も、生活のあり方全てが「車社会」を前提として築かれてきたからだ。

経済が回復しても減り続ける運転距離

 米国運輸省が毎月発表している米国人の積算運転距離のデータを見ると、経済が不調だと必ず運転距離の量は減っていることが分かる。70年代からのデータを見ると一目瞭然で、不況に入るとすぐに積算運転距離が減り始め、経済が回復するにつれて再び上昇する。

 ちなみにこれまで最も運転距離が減ったのは、70年代後半のオイルショックの後だ。このときは26カ月にわたって減少し続け、経済の回復とともに再び増え始めた。

 今回の運転距離の減少には、特殊な点が2つある。

 1つは、不況に入る前の2005年から減少が始まっている点だ。もう1つは、経済が回復基調に転じても、運転距離が一向に増えない点である。現時点で92カ月間にわたり減少を続けており、専門家は「異常事態だ」と見ている。

 ガソリン価格が史上最高額を記録するほど高騰しているのが理由だという声もある。しかし、価格が高騰したときも、安定した2011年以降も、運転距離は同じように減り続けている。