失業や就職失敗とそれを取り巻く様々な要因を抱え自殺する多くの中高年男性と若者。彼らを救う有効策は何か。

 日本の自殺対策への取り組みは、他の先進国と比べ遅れているとしばしば指摘されてきた。そのため、こうした反省を生かそうと、日本の自殺に関する学会や行政関係者は、海外の自殺対策プロジェクトについて多くの調査研究を行い、日本の自殺総合対策大綱に取り込むなどの努力をしてきた。

 その結果、日本の自殺対策は、全国「画一的に」行われてきたことが指摘できよう。もちろん、海外の例を参考にして日本の自殺対策に適宜反映させることは、重要なことであろう。しかし、海外の成功例を真似るだけで日本社会における自殺問題を解決することはできるのだろうか。

 ようやく最近になって、日本各地で草の根レベル、地域レベルでの活動が活発になり始めた。それらの活動事例を応用することもまた、日本社会における自殺対策の重要な要素であると考える。

 今回は、各地域での自殺の背景や状況を入念に分析したうえで、その地域の実情に即した自殺対策に力を入れてきた東京都足立区と秋田県の事例を紹介する。

つなぐシートとパーソナル・サポーター(東京都足立区)

 足立区は、2006年に東京の市区町村で自殺者が最も多くなった事実を受けて、2009年から区の現状に沿った自殺対策を進め、「都市型自殺対策モデル」を打ち立てた。

 そのモデルは、第6回で紹介したライフリンクの平均4つの自殺に至る危機要因を重要視し、その連鎖を断ち切るため、自殺に至る問題を上流までさかのぼり、それぞれの要因を総合的に解決していくというものである。

 足立区のような人口の多い都市は秋田県などの人口の少ない地方と違い、行政、民間の自殺対策の関係者が住民全戸を訪問するアウトリーチ型の対策は難しい。

 その一方で、都市部ならではの強みもある。区内には、法律相談機関や福祉事務所、保健総合センターなどの専門相談窓口は豊富にある。それぞれの職員が各窓口で足立区民のSOSを受け止め、問題に応じた関係機関と連携することによって課題解決に導こうというのが、都市型自殺対策モデルの大きな特徴である。

 まず、区の自殺データの詳しい分析を行い、失業した人に自殺者が多いことを把握した。失業した人が抱えがちな自殺のリスクとして、生活苦や多重債務、うつ病などがあるため、ハローワークだけでなく、福祉事務所、弁護士や保健師が連携して、1カ所で相談に応じられる「総合相談会」を定期的に開いている。