病死した家畜の肉が市場に出回り、しゃぶしゃぶ屋では羊肉と偽ってネズミ肉を提供する──神も仏もない社会、「末法の世」とは、まさに現代中国を指すのかもしれない。

 中国でモラルの崩壊に歯止めがかからない。「バレなきゃなんでもアリ」とばかりに人が人を平気で欺き、「金のためなら不要な殺生もあり」と、あたかも餓鬼道に落ちたかのような乱世ぶりである。

 人として行っていいこと、行ってはならないことを提示するのが、宗教の大きな役割の1つである。これほどまでにすさんだ中国人の心を、果たして宗教は正しい道に導くことができるだろうか。

書店のゴールデンラインに「仏教書」?

 実はいま中国で、仏教が密かなブームとなっている。

 東京からの直行便が発着する上海の虹橋空港、ビジネス客も多いこの空港に、小さな書店がある。店頭には、『財経』や『看天下』などをはじめとする様々なビジネス誌が並んでいる。買っていくのは明日の「発財(金儲け)」を夢見る中国人ビジネスパーソンたち。「欲望都市・上海」の色は褪せることはない。

 そうしたビジネス雑誌に交じって、一風変わったオールカラーの雑誌が販売されているのを見つけた。雑誌の名前は『佛教文化』(佛教文化雑誌社)。隔月刊で1冊20元(約320円)。通巻で124号、とある。

空港の書店に売られていた雑誌『佛教文化』

 手漉き風のザラザラした触感の紙を使っており、メジャーなビジネス誌とはまったく異なる風合いだ。まるで切れない刃物で裁断したようで、手に取ると裁断の紙屑がぱらぱらと飛び散る(写真)。

 ページをめくると、僧侶や信者が登場する様々な特集が掲載されている。例えば、癌に倒れるも「食事や生活環境などを“仏教的なもの”に切り替えることで、病の進行を遅らせることに成功した中国の人気作家」の話。また、「自転車で全国を行脚し、エコライフを説法する僧侶」の話もある。

 ビジネス客を相手にした書店で仏教雑誌が売られているのは違和感を覚える。そのうえ、一番客の目を引く、棚の“一等地”に置かれているのだ(日本でも『大法輪』や『月刊在家仏教』といった仏教雑誌があるが、ビジネス客向けの書店でこれほどの一等地に置かれることはない)。