黒川清・日本医療政策機構代表理事監修

 9月10日は世界自殺予防デーである。アイルランド出身のエコノミスト、レネ・ダイグナン氏が制作し、自殺問題を取り巻く日本社会の実態を描いたドキュ メンタリー映画『自殺者1万人を救う戦い』が数々の賞を受賞し、話題となっている。

 駐日欧州連合代表部経済担当官の顔も持つ彼を、3年にも及ぶ自主制作へと駆りたてたのは、隣人の自殺だった。

 「なぜ、日本では自殺が美化されがちなのか。なぜ、日本人は自殺“防止”に無関心なのか。日本は世界でも自殺が多い国であるにもかかわらず、十分な対策が取られていないのはおかしい。日本でもっと自殺防止の議論を始めてほしい」との願いから無償でこのドキュメンタリー映画のDVDを配布し、各地で上映会を行っている。

 今回は、日本の自殺の現状や、金融危機など経済的苦境との関係、また実際に各地で行われている具体的な自殺予防の取り組みを紹介し、3回のシリーズで考えてみたい。

 日本は先進主要国の中でも自殺率が高い国であるということをご存じだろうか。

 2013年6月の OECD Health Data によると、日本はOECD(経済開発協力機構)加盟国中、韓国、ハンガリーに次いで3番目に自殺率が高い。また韓国と同様、1997~98年の金融危機を境に自殺が急増、その影響がほとんど見られなかった西欧の国々とは、自殺率の推移が明確に異なる(図1)。

日本の自殺の現状

 日本では昨年、15年ぶりに自殺者数が3万人を下回ったものの、1998年の金融危機以降2011年まで14年連続で3万人を超えている(図2)。また、1998年以降2012年まで、男性の自殺者数は常に女性の2倍以上を示している。